ジローの発見?・理想のマシン! (手前味噌・版)

  
 
 
番外編

 
(大排気量ツイン・裏バージョン)
 

 

 

あまり知られていないことに ジローは甘党である。
 
もはや アルコールは彼の仕事のスパイスになっている筈だが アルコールの味には完全に麻痺していた。 いや むしろ仕事に差し障るので本当は遠慮したいものだと感じている。
そんな彼も仕事のあとの楽しみがひとつあった。 それは チョコレートである。 ギター弦で痺れた指で
チョコバー・ミルキーウェイのパッケージをあける。 チョコレートに包まれたヌガーが体温と同化していく。 噛み締めると 奥歯にここちよい。
このアメリカ製のチョコバーに癒されつつ 仕事を終えるのは彼の日課でもあった。
 
ジローは 最近の日本製には辟易としていた。 アッサリ路線をいくものがウケる時代なのだろう。 しかしあっさりしているのと 軽薄な味の区別がつかないものかと つい毒づいてしまう。
ミルキーウェイの硬派な味わいを見習って欲しいものだ。日本製のバイクも同じか…。
そのとき彼の思考回路に電撃の如く閃いた!
 

ハーレーだ! ハーレーがあるじゃあないか!!

 


  

ハーレーダビッドソン・スポーツスター XL1200S



昔乍らの空冷OHV・45度Vツインエンジン搭載

 

なんと約40年も基本レイアウトを変えずに やっているのは大メーカーの姿勢としてはアッパレである。 とっくに減価償却終了したハズだが いまだにOHV・Vツインの空冷エンジンを使い回している。

後ろシリンダーの冷却効率はどうなるんや、とか どう考えても前後のヒートに差が出るのを一個のキャブで賄っているという なんともおおらかな設計である。
さすがに昔ながらの工作品質に反省したのか、86年(?)に高回転・高出力を社訓とする東洋の某H社の技術協力によって新調された「進化」と名付けられたエンジンに載せ替え、経営的にも復活を果たしたことは記憶に新しい。

しかし、相変わらず不当にデカいエンジンである。

正式発表はされていないが、1203ccでもたった60馬力しかない・・・
、と言うことはひょっとして、以前試乗したカワサキZ750twin を上回る怒濤のトルクが期待できるのか・・。 おのずから期待感が高まる。

 

 
 

さて国道163号線は清滝峠を越えて高山町にあるH氏のガレージに向かう。
のどかなイナカの一角に1200Sは保存されていた。
 
 
なんとそれはド派手なキャンディ紫である。


一般市民なら引いてしまいそうなカラーリングであったが、ジローの目にはいにしえのカワサキ H2A を彷彿とさせるが如く鮮やかに映り、これだけでもクラクラっとイッてしまいそうになった。
今度こそ危うしジロー!

さて、H氏のXL1200Sであるがこれが最近納車されたばかりで残念ながら、回せるのは2500rpmまでである。
スレンダーな車体に、長距離では問題のありそうな小振りのガソリンタンク、シートの最前部からは後シリンダーヘッドがはみ出しており停車時には否応なくジーンズを炙る。いや、そんなことより噂には聞いていたが右ニーグリップ部には巨大なエアクリーナーケースが居座り、対照的に左膝はまったくニーグリップできずぶらぶらと落ち着かない。

走ってる時はわからんかったけど、足ついたら、ヘッドに触ってモロに熱い!

一見トライアル車風のスリムさに喜ぶ。
でも実はステップ幅がやたら広くて、右側はエアクリボックスをニーグリップする(何じゃそりゃ〜)。左脚は後ろからみたら内股になってるぞ〜!と指摘された。
なんちゅう変なポジションか!?


しかし30分も乗ってると熱いんで、自動的に「ガニ股ハーレー乗り」に矯正される。



国産車では考えられない特異なポジションがジローを戸惑わせた。

さらには マフラーは2000年モデルからジローの最も嫌う艶消しブラックになってしまったのだった。

ところが!純正エキゾーストからは 予想に反して意外と元気な排気音が・・。
 
ジローは困惑した。 ええとことイマイチの混ざり具合がアメリカ〜ンなのである。
「これならノーマルのままでも乗れるか、いや!そんな想いはきっと今だけか…。」
 



 

H氏と共に清滝峠旧道を流してみる。
 

大陸的な太いグリップに日本人との体格差を感じさせるレバーの距離、ビッグツイン系のFLHならまだしも、軽快な外観と裏腹にダートラで鍛えられたはずのスポーツスター系もハーレーの一員なのだと再認識する大味な乗り味。
 
クラッチをつないだ瞬間、ドン!といかにもデカいフライホイールマスに乗って飛び出した。
動き出すと現在の国産車にはなくなってしまった角のある爆発感を感じる。XS650あるいはチューンドSRといえば近いだろうか。しかも、パラレルツインのように滑らかな回転力とは違い、ドカドカッと前後に揺すぶられるあくまで荒いパルスである。
 
 
「これこれ〜!これなんよね〜」

ジローの脳裏にミルキーウェイの あの濃密なチョコヌガーの味わいが熱く滴り落ちた。
スポーツスターは やはり本来は地平線まで続く直線を走るマシンであると感じさせられる。 朝 目覚めてハイウェイにのり 日が暮れるまで地平を目指し 日の暮れとともに宿を捜す、そんな使い方が似合うのかもしれない。
しかし慣れるにしたがって案外よく曲がることにも気づいた。 近代的なタイヤのせいもあるのか、軽くリーンさせると間髪いれず前輪に打角が付き 以前乗ったカワサキW1の立ちの強さとはまったく違う。今やハーレーダビッドソンも確実に進化しているのだ・・。

しかしジローにはある想いが・・。

「この純正シートでは2ケツが厳しいだろうな・・。」
 


 

試乗を終えて、かつてはハードロック少年だったH氏は彼に Purple Haze をリクエストしたが残念ながらジローはその曲のアンプラグドバージョンはまだカバーしてないんだ・・と告げ、お茶濁しに Stairway to heaven をつま弾きながら苦笑いをした。

ハーレーはなかなかいいセンいっていたが 残念ながらニューメインマシンには別の単車を探すと伝えた。


昨日のカジリかけのミルキーウェイをハーレーライドの後の虚無に添える。 すでに熔けたヌガーが乾燥した口腔に広がる…。
「残念だが、繊細さが足りないようだ。 乗っているのはしょせんワビサビとは無縁の毛・・」
と言葉にしたとたんに奥歯に激痛が走った! アマルガムが取れた〜!
さらには「ギル」が! 二重の痛みがジローを襲う!

「ぐっ ぐわわ〜!! ひいい〜!」

彼は 苦痛に顔を歪ませつつ エンジンをかけて立ち去った。 明日から歯医者通いが始まると思うと堪らなかった。 
やはり ミルウォーキーウェイは彼には大味過ぎたのか 今となっては それは分からない。

 

博士 ここにもベストマシンはなかったぜ…。

手負いのカワサキの機能停止まであと X日。

 
 

急げ!ジロー先生、次号の原稿〆切りまであと日!?


連載開始記念特別付録


「ジローのテーマ」・フルコーラス版
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