マッハIIIピンポイント整備入門

新キャブレター編 プロローグ

キャブの観察日記

ピンポイント整備入門は ド素人メカ自身が 如何に隣のド素人に 老婆心僭越ながらノウハウを伝えていけるのだろうか というところから端を発し すでに4〜5編書いてきた。 
過去に書いてしまった記事を ちょぼちょぼ読みなおしてみるけれども 今では「うっそだぁ〜」と 感じてしまうところもある。 
知らず知らずに(実は)改定しているのであるが…どうしても小改定では納得のいかない記事があるのだった。
それは もはや4〜5年前の記事になってしまった「キャブレター編」である。
いや オイルポンプ編も もはや ダメ ではあるが キャブレター編には 大きな誤魔化しが存在し それが 日々の整備にも のし掛かってくるようになってきたのだった。
キャブの記事には 避けて通ってはならない部分であるが その部分は どんな初心者向け整備本も あたかもタブーの如くに避けられ回避され先延ばしにされてきたものであった。
本記事は まずはそこにメスを入れた上で 進行させていこうと思う。

その最も 根本となるのは…
「どの穴が どこへどうつながっているのか」
と言う疑問である。
写真だけでは 実際のイメージをつかみにくいので もしも眺めることができる予備のキャブをお持ちならば 是非に触りながら記事を読んでみて欲しい。
用語に関しては なるべくSM2や慣例的に使われている言葉を選ぶようにするので わからない言葉単語はSMやPLを参照して欲しい。




平成15年 1月16日

キャブの記事をダンドリするにあたり これまでに撮りだめした写真を眺めてみる。
かなり莫大な写真があるが 一貫性がないのがつらい。
また 撮ったはずなのでないかなと探すと出て来ない。 それ用に撮ってあったつもりが 今更見なおしてみるとがっかりするような写真だったりするので 改めて撮りなおしつつ進行する事にする。

大方の過去の撮りだめした写真は 作業中に思いついて撮ったものばかりなので 目的を持って写真を撮ることにした。
ジャンクのKAのキャブがあるので それをモデルにすることにする。


まず 穴というアナが どこからどうつながるのか ホウキの藁を通して撮影をする。
エンジンがへたる キャブが傷むというのが どこかの通路が徐々に詰まったり
逆に磨耗して広がることで起こると考えるならば その現場を見たいというのが狙いだ。
一番分かりやすいのは ガソリンのパイプ孔から フロートバルブの穴である。
矢印のように上からガソリンが入り 上のキャブ裏写真の紺色矢印のフロートバルブがある部分から フロートチャンバー(chamberとは 機械の中の「部屋」と言う意味で チャンバールームとか チャンバー室なんていうと ニンジャマンとか ミスターオサマビンラディン氏とかと同じく重複してしまうのだ)に流れ込む。

写真は 分かりやすいように真鍮のパイプとメクラ蓋を外してガソリンの通り道を見ている。

写真中央の穴からフロートバルブが取り付く穴までつながっているのが見える。

この穴(上の写真の青矢印)にはフロートバルブが嵌まる。
フロート室にガソリンが溜まって その高さ(油面)を一定に保つようにするのがフロートであり フロートバルブである。

ひとつ上の写真の穴から この側面の穴を通ってフロート室にガソリンが入ってくる。



実際にキャブを手にとって眺めてみて欲しいが 次に分かりやすいのは やはりチョーク系だろう。


写真のキャブでは スロットルバルブが無いので 気を向けて見ていて欲しいのは
チョーク系は スロットルバルブよりもエアクリーナー側から流入して
スロットルバルブよりもシリンダー側に開くと言うこと。
チョーク系の目的が スロットルバルブが閉じている時に作用するものだからだと思われる。

エアクリーナー側から覗くと 矢印の穴から チョークプランジャーの入る穴へと藁が入るのが見える。

ここは分かりにくいし 藁が入らないので パーツクリーナーを左写真の真鍮パイプから吹きこんでみる。
すると チョークプランジャーが入る穴から抵抗なく吹き出てくる。
この真鍮パイプから吸い上げて 上のキャブの裏写真 黄色矢印から入って チョークプランジャーの先っぽのゴムが蓋をしている穴から吸い上げられるのだろう。

エアーは ふたつ上の写真の穴から キャブの側面でみて青矢印のように通ってチョークプランジャーの納まる穴へ来る。

キャブの構造が 外からみても「なぜにこんな形をしているのか」分かる部分である。

チョークプランジャーが入る穴を上から見た写真。
エアクリーナー側から吸入されたエアーは チョークプランジャーが持ち上げられているとフロート室からガソリンを吸い上げて…

…今度は写真の矢印に向けて吸いこまれていく。

チョークプランジャーが戻りきっていないで 浮いている場合や プランジャーの先のゴムが傷んでいてガソリンが吸われる場合 チョークが効いたまま走ることになって色々な症状を出すことがある。
(これは後述する)

チョークプランジャーが入る穴でガソリンが吸い上げられたあとは 藁が通っている穴からシリンダー側に抜ける。
その穴は スロットルバルブよりもシリンダー側に開口している。

チョークプランジャーが塞いでいる穴は メインジェットやパイロットジェットよりも大きな穴であり 当然ニードルが入っているわけではないので
始動時にかなり濃いガソリンがエンジンに入ることが予想される。

全くの余談であるが マッハ系のチョーク機構が このようにバネで抑えつけてあるプランジャーを 手もとのレバーで引っ張り上げることで効くようになっているのは
アクセル全開走行時に アクセルを戻す時に混合気が薄くなって危険な場合に さっと親指でプランジャーを開いて 濃い混合気を送るためだとか 半分ガセ?ながら語られるところである。


次に比較的分かりやすいのは フロートチャンバーとミキシングチャンバーをつなぐ穴である。 H1のキャブをいじった事があるヒトならば フロートチャンバー内にガソリンが入っている時に キャブを裏返したならば ミキシングチャンバーに向けてガソリンがピューと吹き出るのを見たことがあるかもしれない。
そのミキシングチャンバー内への穴(エアーベント孔)は 三気筒シリーズでは H1シリーズ以外には見られない。
初心者向けの記事にしては深い話しになるのだが ガソリンがフロートチャンバーからミキシングチャンバーに移動して 混合気となり エンジンに入るというところ 「フロートチャンバーからミキシングチャンバーへガソリンが吸い上げられる」のか「フロートチャンバー内とミキシングチャンバー内の圧格差で ミキシングチャンバーへガソリンが噴出するかたちで押しあげられる」 のかという考え方の違いがある。
考え方は違えども ガソリンはフロートチャンバーからミキシングチャンバーに移動するので フロートチャンバー内を大気圧に調整しておかないとダメである。
この圧を調整しているのは ひとつはフロートチャンバーの下に設けられた「オーバーフローの穴」であり あの穴はガソリンが出ていくだけではないということをアタマにおいておいて欲しい。
話しは前後することになるのだが キャブレター編本編ではH2やSシリーズのキャブとの比較もするので写真モデルのH1のみが この通路が特殊であることに触れてみたい。

写真は フロート室底から伸びたドレーンのパイプである。
H1系は 中空の棒に 写真のように小さな穴をあけてあるものが多い。
その穴は 横から見て 一番高いところに来るようにねじ込んであるのが正常。
この穴はなんらかの原因で油面が高くなりすぎた場合に ガソリンが出ていくように開いている と名前からして考えているが
逆に フロート室のガソリンが吸い上げられていくことで 陰圧になってしまわないように大気圧と等圧にする機能を持っている。

製造上 この穴が開いていない(工程不良)キャブが時々見られるので ちゃんと貫通しているのか 機会があれば見る必要性があるかもしれない。
自身も経験があるが このジャンクキャブもそうだったので 一応写真には撮ってみたが 残念ながらピンボケだった。
(このキャブだけオーバーフローしない♪なんて笑っていてはいけません)
ドレンパイプはなんらかの つまんで引っ張って抜く工具があるのであろうが ド素人は往々にしてプライヤーでひっぱったりしてみる他はないが 無理は禁物。
クリーナーを吹いてみて抜けているかみるという方法もある。

フロントスプロケットと同様 外したい時には外れなくて 外れて欲しくない時には外れることがあるもので このドレーンチューブも 走行中に外れたことがあった。

ドレーン孔から 滝のようにガソリンが漏れて クランクケースの上にナミナミと溜まってあふれた! 自ら落としたガソリンでスリップした経験があるヒトもいるかもしれない。

ねじ込む時は ハンマーで叩き込むと穴がひしゃげるので プライヤーでつまむ形でねじ込んで 穴が一番高い位置に来るようにする。

フロートチャンバー内を大気圧と等圧に調整する穴として まずはドレーン孔を挙げたが もう一系統が これからみて頂くエアーベントである。

エアーベント経路に関しては 本編で他機種と比較するので その時にじっくりと説明するが 写真矢印の穴がエアーベント孔である。
フロート室にガソリンが入っている状態でキャブをひっくり返すと この穴からピューと出ているのを見たことがあるかもしれない。
ガソリンがピューと潮吹きしていないと見落としてしまうような細い小さな穴である。
(上から藁をいれることができるのは たまたま上部のメクラ蓋が取れていたからである。)

フロートチャンバー側からみると この穴がミキシングチャンバーへ続く経路になっている。
一番上のキャブの底の写真では 赤矢印のように2ヶ所開いているが H1系では一方だけが繋がっていて もう一方の穴は 開放されること無く閉鎖腔になっている。

(日記の上では これぐらいしかこの日はこだわらなかったが 実は他機種と見比べるとH1のキャブは特殊であることが後日分かってくる)


次は いよいよ難モノの エアージェット類の通路である。 これがどこからどこに繋がるのかをまずはハッキリとさせていかないとキャブの記事を書く意義が半減する気がしたので ここに力を入れようと思った の だが…。

まず上の写真 グリーンの矢印の部分にはパイロットジェット(スロージェットとも言う。PJともいう。)が入る。 
見本のキャブは外してあるが このPJが強くしまりすぎていて抜けなくなり マイナスドライバーが入るところが壊れてしまって入院 というのが多いので 無理をしないで慎重に外して欲しい。

藁を通して ミキシングチャンバー側から覗くと…

…PJの直上に開いているのが見える。

藁が出ている穴の左横の大きな穴は ニードルジェット(通称「筒」。「針」に対してそう呼ぶ。NJともいう。)が入る穴(上の写真の水色矢印)である。
NJを外したりする手順は本編でまたじっくり説明する。
NJは フロートチャンバー側でメインジェット(MJと略する)で固定される。

NJが手に入るようになるまでは NJなんかどないやって外すんだろうと思っていたものだ。

PJ直上の穴はスロットルバルブの円の内側にある。
だから バルブが落ちきった状態(アイドリング)ではガソリンを出しにくいので 直上の穴だけではなく シリンダー側にも穴が開いているのだろう。
藁を入れてみると 奥でPJの入るところに開いている。

PJから吸い上げたガソリンが出てくる穴は 容易にみることが出来るが
問題は エアークリーナー側からエアーを吸いこむ経路がよくわからない…。 

エアークリーナー側からキャブを観察すると 5つの穴が開いている。
真中にひとつ そして左右対称にふたつずつ開いており ひとつの穴はなんと 真鍮の球?で塞いである。

エアースクリューが入っていた穴からは 藁を通すことができるが その穴は写真の穴とはかくして繋がっているのが見られる。

しかしながら これらの穴から 如何にうまく藁を通そうとしても NJやPJの穴から出て来ることはなかった。

ホウキの藁は 1とエアスクリューの穴とはつながっていた。
2は真鍮の球?で塞がれている。 
以前に「この蓋がとれたんですけど そのまま乗っていて大丈夫でしょうか」とメールをもらったことがあった。
そんな恐ろしいこと たぶんマズイと思うので キャブレター屋さんに相談して欲しいと紹介した。 
キャブ自体は すぐに直して送ってくれたらしい。簡単な修理だったのだろう。
一番大きな穴3は 少し入ったところでドンずまりで通る様子はない。
4はNJが入る穴の脇より向こうにまで ズドーンと入るので ワクワクする。
NJやPJに向けて藁が通らないかゴソゴソするが開通する様子がない。
5は入ってすぐに4に向けて開いている。
3と4がつながっている様子はない…。

SMで確認すると これらの穴から PJにつながる穴は パイロットエアージェット そしてNJ(MJ)につながる穴はメインエアージェット と書いてある。

最初に書いたが キャブの記事を書きかえるならば キャブはなぜ劣化していくか どの通路が知らず知らず詰まってゆくのか それを明らかにしないと意味がないと考えている。
これまでの整備書には「穴という穴はキャブクリーナーで通しておく」という一行でぼやかされていたところに深い意味があると思う。

しかしこの日の「キャブの観察」は 文字通りここで どんずまりとなってしまった。



平成15年 2月23日

キャブの通り道を 全てハッキリさせてからキャブの記事を 新たに書きなおそう という気持ちはあるが 実際に どこからどう通るのだと言うことを 突き詰めてやろうと言うキモチも薄れて 時間だけがダラダラとながれていく。
その間も キャブの同調のとり方を聞いてくるヒト キャブの掃除や調整について悩んでいるヒトからメールや書き込みがくる。
実は悩んでいる事のパターンが似通い過ぎているんで パターン別に対処用文章を書いておいて それをコピー&ペーストして返事をしたりしていた。

だいたいキャブと言うもの どうやってアノ複雑な構造を作っているのだろうと 徐々に考えるようになっていた。 ヒトが作ったものなので 作る行程は簡素にできているはずである。
恐らくは ある程度の形に鋳造して それを掘ったり削ったりして作っているのだろうなあ というのは 曖昧にもイメージすることはできる。

ものごとは やはり直視下のもとに 通路をひらいて見るのが一番ではないかと思うようになっていた。

どうせジャンクのキャブレターなので この際 犠牲に…
好奇心を満たすための 貴い 犠牲に…


関西圏で勢力を伸ばしている そのホームセンターに走った。

前々から 買おうかどうか ずいぶん迷ってきたモノを とうとう購入した。

後にはひけなくなった…



平成15年 3月2日

今日は天気もよいので ドレメルでキャブのエアー通路を削ってみようと思った。
モデルのキャブは いわゆる 穴明きキャブ と言われるもので マニアよだれもんかもしれないが そんなこと知ったことではない。

ホームセンターで購入した ルーターに 適当な歯をつけて ぎょんぎょんと削ってみることにした。


まずは 穴1と2の間を 削ってみる!
ギャーンギャーンと 派手な音がするわりには 意外と削れない!

削れども削れども 内側の通路が開くほども削れていかないものだった。
2の真鍮の蓋を 削り取れればイイと考えて そこも 穴を広げるかたちで削ってはみるものの 音の割に 削れる様子がない!

2の穴の奥や 4の穴の奥の通路を開放させてやろうと ケズリ込むが 一向に通路が開く様子がない。
4の奥で NJの穴とつながっている現場と捉えられないかと ひたすら削るが 鋳物で出来ているとナメてかかっていたキャブのボディーに 全く歯が立たない。

ドレメルで キャブの細い通路を削り 今まさに詰まっているところを白日の元に直視するという考え方は もろくも敗れ去った。
通路がどれだけ狭くて どれだけ詰まりやすいのか どれだけ実際に詰まっているのか またどこからどう繋がっていくのか 切り開いて直接目でみることが出来たら どれだけスッキリするだろうかと思ったのだが…。
ニセドレメルがダメなのか? いや 基本的に キャブ本体って 意外と硬い材質でできているので モーターツールの回転数ぐらいでは削れないのだろう…。



平成15年 4月19日

単車の整備の合間に モデルのキャブを眺めてみる。
ドレメルで削るのが出来ないほど硬かった感触が思い出される。
金ノコでカットモデルのように切ってやろうかととも思うが ガレージにある貧弱な工具では危険なだけだろうと思う。
どこか 気持ちよく旋盤やボール盤を駆使してやってくれないものだろうかと 思い浮かべながら ホウキの藁を穴に通してみる。

ふと むかし ベーゴマの背に センターを考えて穴をあけてくれたおじさんの事を思い出したりする。
ベーゴマの背には 長嶋やらカネゴンやら書いてある(当然無版権♪)のだが そこで歯が暴れるのを うまくあけてくれたものだなあと。
バランス配分よく開けてくれた穴に 溶かした鉛を流し込む すると回転モーメントが上がって強くなる(実際にはデチューンになっていることも多いのだろうが)として よくやったものだ。
よくやったと言っても 子供時間で「よくやった期間があった」というだけで 実際には数ヶ月だったのだろう。 オトナ時間が流れる今では 居眠りして瞬きしている間に流れていくぐらいの時間である。

夜は 世界不思議もののテレビを観る。 
遺跡や名所をインタビューして CM前にはクイズ形式になっている よくある番組だ。
回答を出すのも 賞品をもらうのも 一般人ではなくてタレントさんである。
やっぱりボケ回答も芸(シナリオ)のうちなのだろうかなどと邪推する。
それにしても 自分に似せた人形をスーパーひとしくんと呼ぶのは さぞかし恥ずかしかったことだろうと思う。
エジプトのピラミッドをみていて あることに気がついた♪


ピラミッドは もともとのメインの出入り口は 青い矢印の部分にあって これも完成の後 閉じられていたらしい。
しかし 今 見学に入る穴は 盗掘の穴から入って もとのピラミッドの回廊に続いていくらしい。

盗掘の穴は まったく盗人が開けた穴ではなくて ピラミッドを建てるために必要だった穴を後からこじ開けたものだと。

建造上設計上必要だった穴を開けて その後 通常の回廊を残して塞いでしまう…
これは複雑なキャブの通路をドリリングするために開けた穴 また そのあと塞いだ蓋と同じではないかと思い当たった。

では その通路をどう言う手法で どうやって開けたのかをみれば分かるのではないか!
自分でキャブを製造するならば どうやってキャブの通路を開けるのか 考えつつ進めてみることにした。



平成15年 7月24日

キャブレターがミナミ会長から帰ってきたので 休みの日に早速取り出して眺めることにした。
キャブの構造を見たいので エアー通路のカットモデルを作って欲しいと依頼してあったのだ。
専門的な工作機械をつかって ズバズバ断面にしてくれるのだろうと期待していたのだが 結果的には製造上の穴を塞いである蓋を 全て取り払ったかたちで送り返してくれた。
若干拍子抜けだったが「充分に構造は分かるようにしてある」とのことであった。

会長 と呼ばれると「大阪マッハクラブ なので 部長ならいざしらず 会長というのも変だ 大阪マッハ会じゃないんだから」と テレ隠しをする。
彼曰く 会長というよりも マッハ御用聞き の方がふさわしいらしい…。

果たして 真鍮などで塞がれていた「製造上の穴」を全て取っ払うと ホウキの藁がすっすと通って やっとエアー通路の謎が崩壊していった。


まず分かりやすいのが 穴3である。
穴3は その奥にエアージェットと呼ばれる 穴の大きさを規定するジェットが圧入されている。
この穴はかなり狭いので針金や藁が通らないのだろう。
車種によっては エアージェットをPJよろしくマイナスドライバーで回してとれるのもあるらしいがマッハ系のキャブは取れないらしい。
隣の穴2や4とのつながりは無く 直接NJが収まる穴に開いている。
NJが収まる穴に光を入れると 写真のように通っているのが見える。

シリンダー側から覗くと エアージェットから来た穴が見える。
この穴は PJが取り付いていると もちろん見えない。
通路を直接ひらいて見ることは出来なかったが エアージェットの周辺や
この穴とNJの段差周辺にゴミや腐ったガソリンが詰まり易いことが予想される。

キャブを掃除する時は やはりNJを外してしなければならないなあと思われた。

次は パイロット(スロー)系のエアー通路である。
真鍮のシャフト?で塞がれた穴2を開放すると 今までの疑問が氷解した。
穴2からは 藁がかなり奥まで入れることができる。
これは穴4と同じぐらい深く入る。
そして穴2は エアスクリューが入っている穴と穴1と同じようにつながっていた。
エアスクリューをねじ込むと ちょうどその先が穴2に達するようになっている。

パイロット系のエアー通路は写真のように 穴1から入って クランクのように通り パイロットジェットに向かう。
当然 通常はこの左の写真のように 真鍮のシャフトのようなもので塞がれている。

メイン系の通路は メインエアージェットで広さは固定されており 流量はおもにスロットルバルブの開閉で変化するのだろうが…

パイロット系は パイロットジェットからあとの開口がスロットルバルブの手前と後にあるので 流量は エアスクリューである程度調節している。
エアスクリューは 先端がテーパー状であり その先細りの部分が エアー通路を占める割合でエアーの流量を調節している。
すなわち 全部締め込んだ状態から 1回転半戻すとか 1回転と4分の1もどすとか 大まかに決まっている。
テーパーリングの形状が変わると 当然戻し回転数も変わってくるので 社外セットのエアスクリューを使用するときは要注意である。

(白状すると エアスクリューって ネジのアタマ部分からエアーを吸ってるのだろうか などと 長年勘違いしていた。)

エアスクリューを越えると そのまま奥につながりPJの入る穴の傍らにまで通路がつながっている。
この通路は 製造上 穴2も4も開いている。

その通路を PJの入っている穴と如何にして繋いでいるのかというと また製造上の穴が貫くかたちで抜けている。
上の写真とこの写真で ホウキの藁が穴2とPJ穴の横とで通っているのがわかる。

キャブレターは 鋳造で 大まかな形でぬかれたのち ドリリング ボーリングして製品になって行くのだろう。
製造上の穴は 製造最後に蓋をされる。
また同じVM28でも 左キャブと右キャブでエアスクリューの入る穴の開け方が左右異なっていたり 使用車種によりエアベント孔が 大気開放になっていたり ミキシングチャンバー開放になっていたりで 若干の作りの違いがある。

穴4と5は 赤矢印のようにつながっており 穴1と2同様 PJ穴の横にまで続いているが 穴4は真鍮棒で栓はされていない。

つきあたりまで続いているが これは全くどこにも繋がっていない。

パイロット系のエアー通路は 右キャブと左キャブの違いで 最終的にどちら側にエアスクリューを持ってくるかによって開けられる穴が変わってくるのだろう。
穴2や4は 結構深いので 始めの方の工程で開けられているのだろう。

ドリルは 掘っていく先で方向転換する事は出来ないので 常に直線的に穴を開けることになる。
奥の部分で穴を通そうとすると 横から製造上の穴を開けて 後から塞いでいる。
そうしてみると 製造上の穴は ピラミッドの「盗掘の穴」のように あちこちに開いているのがみられる。

PJからの燃料は これら二箇所の穴からミキシングチャンバーに出てくる。
赤と青の穴の間にはスロットバルブがある。
閉じている時は青から燃料が出るのだろう。

マッハ系のキャブは どの車種も同じような構造をしているので エアー通路に関してはこれでオッケーだと思ったら満足してきた。
興がノッてきたので 他の車種のキャブを出してきた。

写真はW1SAのキャブである。
ダブルのキャブは 後ほど 油面調整のところで「ティクラーとはなにか」という時にも登場すると思う。
ダブルのキャブで謎なのはチョーク機構で スロットルバルブの内側に もうひとつ壁がある。
あれが閉じているとチョークが効くようになっている。
ミキシングチャンバーのクリーナー側で壁を作って ミキシングチャンバーに入るエアーを遮ることで パイロット メイン系からの混合気を濃くしようという考え方なのだろうか。
深く考えるのは 必要があってからにする。

キャブの吸入口には三つの穴が開いている。

比較的簡単な構造だと思われるが 穴1は パイロット系のエアー通路で 入ったところでエアスクリューで流量を調整している。
そのまま一直線にPJに向かっているのだろう。

穴3には 嵌め込み式のエアージェットがついているので これはメインエアージェットなのだろう。
逆キャブを作る時には 3と2対称に作ることができるように エアスクリュー用のアタリがついているのが見える。

エアージェットのある穴から掘って 2の穴からメインジェットの穴に向けて掘って 途中で合流させて作ってあるのだろうと思われる。
当然 あとから2の穴は塞いである。

裏側からみると パイロットへつながる穴にする場合は 外に向けて掘って メインにつながるようにするには 赤矢印のように内側に向けて掘るんだろうか…。

ここではあまり深く考えないことにする。

大事なのは 外から観察して想像することなのだ。

次は 90SSのキャブを出してきた。

アイドリング調整もH1のキャブと似ていて親しみが持てる。
90のキャブは エアスクリューは 吸入口にある。
正中には メインにつながる通路を掘った穴を塞いである。

吸入口右上の穴はチョークの穴なので どうやらメインへ行く穴とパイロットへ行く穴は この横に見えるエアージェットからの穴で共有しているのであろう。

このエアージェットは ドライバーが入りそうな溝があるので 圧入ではなくて ねじ込んであって 外れるのかもしれない。

斜め後ろから見ると エアージェットから吸ったエアーは まずはメインへつながると思われる穴に入り メイン系へつながるのだろう。
メインへつながると思われる穴の横には 並んでエアスクリューが入る穴がある。
恐らくは奥でつながっているのだろう。
謎は エアースクリューが入る穴から覗いても エアージェットから来て メインへつながる穴と横穴でつながっているようには見えない点だ。
謎はまたいつか 必要性がある時に解けていくのだろうと あまりこだわらずにおいておく。

エアスクリューの穴は 青矢印でPJの脇まで来て 赤矢印のように横の通路を開けて開通しているのだろう。

裏から見ても メインへ行く通路とパイロット系へ行く通路を横穴でつないだ跡は無い。

最後のオマケで A1のキャブも眺めておく。

これは吸入口正中に一個大きな穴があって そのエアースクリュー側に塞いだ穴がある。
これは 吸入口正中の穴から吸って メインへはそのまま奥へつながっていて パイロットへはエアスクリューの横穴を通って 塞いである穴からPJへ向けて掘ってあるのだろう。
このキャブも 90SSのキャブと同様に一個の穴から メインとパイロットへ分岐してつながっているのだろう。

H1のキャブレターをもとにして VMキャブの構造を観察し どの穴がどうつながっているのかという検証を行ってみた。
従来 整備記事を見ると「穴という穴をキャブレタークリーナーで通す」とひと言 書いてあるだけであったが 大まかな構造を知ることにより メンテナンスの上で役に立つだろうと考えている。
少なくとも 掃除する時はニードルジェットやパイロットジェットを外して どこからどう吹き込んだら掃除になるのか分かるようになるんではないかな。

これでプロローグはオシマイにして 次はいよいよキャブレター編の本編に入っていく。
本編は 各トリプル系のキャブの構造を見て 何に注意する必要があるのかを知った上で キャブの掃除 油面調整やアイドリング調整 同調とりといった一般的日常的に必要なことを紹介していく予定である。

プロローグ終了 H15年11月11日




キャブレター編 本編へつづく…
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