マッハIIIピンポイント整備入門

新キャブレター編 ゼウスの鐘編

はじめに…



キャブレター編プロローグをアップロードしてから もはや半年が経過してしまい 期待してみてくれている方々には裏切ってばっかりで涼しい顔して過ごしておりました。
テクニカル記事を書く手順としたら 大まかな構想がアタマの中で熟成したら まず記事に必要だと思われる写真をまとめて撮ります。んで写真を整理する→記事の構成を考えながら写真を加工する→ああ あんな写真も欲しいと思って別の機会に撮影する→また加工する→記事組み立てのダンドリに無理が出てだんだんうやむやになる→記事で書こうと思っているような内容をメールやBBSで答える→ああ〜わたしは充分にやったと勘違いする→時間があくと前まで整理してたことを忘れる→余計にやるのが面倒になる
→以下悪循環…
多くのHP運営者は 同じような過程をふんで だんだん記事を更新しなくなるんでしょうね。
一方 ことしのトリプルミーティングは第19回を迎えて来年は20回を迎えるらしいです。 長いのかあっという間なのか よく分からないけど 自分では文字どおり「馬齢」を重ねている気もしてきました。
上の写真は大阪クラブのニューフェイス「ソエちゃん」のH1Eの修理風景です。 少し前までは わたしのオートバイが路肩墜落して 皆さんの迷惑をかけていたのに 今では それをゲラゲラ笑いながら写真を撮ってました。
ハタ!と気がつきました「あそこで修理してもらって申し訳なさそうにしているのは自分の筈じゃないか!」
「できることとすれば やっぱり記事を書かなくては!」と。
今後の大きな展望としたら キャブレターの記事をゼウスの鐘編 次に電装系編をサタンの鐘編 そして恐らくはライフワークとなる内燃系マリアの鐘編と続く予定です。
マッハは三つの鐘が揃わないとビシッと走らないことに沿って シロウトが書くシロウトのための記事を進行させていきます。
挫折しかけてきたら 今後ともオシリを叩いてやってください♪

ジロー            
平成16年5月11日水曜日



イントロダクション
それでもマッハはちゃんと走らない…




実は 先のキャブレター編のプロローグを書いたところで キャブは何故にして劣化していくのか また 劣化の大元の原因を もはや見つけたようなものなので「もはや何も心配いらん」とタカくくっていた一面があったように思う。
自信がついていたつもりが 実はそれは単なるオゴリで慢心にすぎないのだと やはり畜生はどこまで行っても畜生 マッハちゃんに なんなく牙をむかれて無力さを痛感する日がやってきたのだった。

第19回トリプルミーティング関西方面往路は九州中国隊と草津SAに集合した。
むかしの烏合の衆大阪マッハクラブは8時半に集合!というと 必ず数人が寝坊して遅刻して出発が10時を過ぎていた。
楽しみで眠れなかったのも手伝って吹田出撃が早くなり 8時には草津へ。
続々と集結する九州中国大阪隊…。
予定メンバーが揃ったので なんと!8時半前には草津を後にした。




関が原を通過する頃から霧雨が降りはじめたので 養老SAでやむなく合羽休憩する。
どうも大阪クラブのルーキーの調子が怪しそうだ。
どうも左1気筒が燃えていない様子(火花はOK)。
パイロット系は燃焼しているのか アクセルを軽く煽るだけで比較的にアイドリングが安定している。
聞けば 吹田インターから高速のったところから不調だったと。
アクセルワイヤーをつまんで引っ張りあげる(つまりその気筒だけスロットルバルブを吊り上げてみるわけ)と
燃焼していないのか まったく回転が上がってこない。
プラグを交換すると一瞬だけ火が入って走るらしい。
それって例のチョークプランジャーが色々な事情で落ちきらないで開いているんじゃないのか〜と言うことで チョークワイヤーをプランジャーから外してスプリングで押しこんだ形にしてみる。
それでも燃焼する様子がない。
みれば チョークワイヤーの遊びもなさ過ぎるし 遊びがまちまち過ぎるんじゃないかということで チョークワイヤーの調整をしながらキャブを見ることにした。
う〜ん パイロット系は機能してるとしたら メイン系のつまりじゃないのか〜っとキャブをばらすことにした。 
この辺りまでは自信と希望にあふれていたのだが…。
MJとPJが詰まっている様子がないので 食堂から割り箸をもらってきてNJを慎重に外してみる。
「生まれてこの方 外されたことなかったよう〜」とうめきながらNJが抜け出てきた。
NJはガバガバだろうが まあ不調になる前までの調子に戻ればイイのだと そこは目をつぶって点検してみる。
プロローグにあるように ミキシングチャンバー側からマグライトで照らしてメインエアージェットが通っているのか見てみた。
しかし穴3の奥にマグライトの光が全く見えなかった!
不謹慎な話しだが
「おおこれはエアージェットが走行中に詰まってしまい 急にイッ気筒死亡したに違いない!かばんに飛行場でつけてもらった荷札がついているので アノ針金で通せば万事解決だ!よしよしよし♪」
と実は心の奥でニヤリと笑っていた。
ガソリンスタンドでエアーガンを借りながらエアージェットを通そうとしてみたが これが全く通る気配がなく 荷札の針金は明らかにジェットより細いのに貫通して通る様子なし!
針金の腰が弱いので捻ろうが押しこもうが通る気配がなし。 霧雨が皆の髪の毛を容赦なくぬらしてゆく。
少し太めのステンレスワイヤーを持ってきてくれたが それは明らかにジェット内径より太く使えるようには思えない。
スタンドに尋ねると アルコール性のパーツクリーナーを貸してくれたので それを噴きこんでみるが アルコールが3の穴に充満してNJ側に落ちてゆく様子もなし!
プロローグで「キャブを掃除する時は やはりNJを外してしなければならないなあと思われた。」などと安易に書いてるが エアーガンもあり 針金もあり パーツクリーナーありの環境でも通すことができないものなのか!と愕然とした。
結局ミナミ氏が「丁度よい太さ」のワイヤーを持っていたので それでヌガー化したスラッジを貫通させて通すことができた。 しかしミナミ氏曰く…
「エアージェット孔がもし急に詰まってしまったとしても 一気筒死んでしまうような状況にはならないとおもう。」
そもそもこの詰まり方は家を出る前から詰まっていたに違いないだろう とのこと。
エアージェットからの流入は よりスムーズに混合気を作るものであって「アクセルフィーリング」には影響するがメインエアージェットが詰まっても
走行不能には陥らないらしい。
キャブを色々とやってみたところで なんとなく調子が出た?気もしたので SAを出発して走り出した。
ところがやはり数キロ走ると一気筒死亡する…。
次の休憩所では とうとうガソリンタンクを外していじり始めることになった。
目指すは出発時の調子に戻すこと であるが「抜けないトゲを抜く」が如く作業が続くことになった。
九州中国連合には先に会場へ行ってもらうことにした。
整備のプロによる路肩作業が続いた…。
キャブの同調とり→べろの高さ法(フロートの寸法計測)による油面調整→キャブレターの左右入れ替え…
依然としてよくならない。
このあたりから 圧縮はそこそこあれども キャブの吸入が弱いことがだんだん分かってきた。
会場近くのPAで修復を試みるが 一瞬よくなったのか!という希望的観測は 数百メートル試験走行するだけでこっぱみじんだった。
バッフルが詰まってるんじゃないかと 外して点検する。 ん〜コレぐらいなら大丈夫じゃないの?と思うがオーナーの手でシコシコ掃除される。
でもやっぱりだめだ〜 ということで最終手段として 腰上を開けようということになった。
まずマフラーを外し始めた…。
またまた不謹慎な話 心の中では「行商できなかったなあ」「メイン宴会は絶望か」と意気消沈しはじめていた。
マフラーを外すと まあなんということでしょう(加藤)♪ガソリン未燃焼液がたっぷりと出てくるではあ〜りませんか!
この段階で 「吸いが弱い」のは コック不良?でオーバーフローしたガソリンが 燃焼室からマフラーに充満していたのではないかと。
「これで宴会に間にあう!」と小躍りして喜んだのはわたしだけだろうか?
充満ガソリンはペットボトルに入れてお持ち帰りとし エキパイ外しキックの嵐でクランクルームのガソリンを形式上は抜いた。
「コック不良で夕べのうちに燃焼室にガソリンが落ちたなら よくリキッドロックしなかったもんだな」とミナミ氏に尋ねたが 不幸中の幸いと。 説得力に欠けるぞ〜。
本当に解決したのか?という疑問を払拭するが如くに エンジンは快調な音を響かせた。
さっさと(宴会に間にあうように!)出発だ!とSAを発進した。

ところが!屏風山PAを出発して 数キロも走らないうちにまた80キロペースに転落。
やはり解決していないのか!
これ以上路肩でハッスルしてもラチがあかない気がしたので 宴会優先で一気筒死亡のまま会場へ先導した。

翌日 大阪クラブの副会長がクルマを回してくれたので ソエちゃん号はドナドナ帰還となった。

…宴会と雨中ツーリングの余韻が醒めやらない頃 ソエちゃんから後日談を聞いたが まずは腰上をあけてみたらしい。
ピストンクリアランスが左から0.109ミリ センター0.144 右0.088とシリンダーの磨耗が激しいことによるのではないかと。
別のピストンで対処して0.07ミリ前後になるようにしたとのこと。
「本当にそれが原因だったのか?」それは5月の末日現在では まだ結果が出ていない。
センターの方がクリアランスが大きいじゃないか!と誰でもが思うところだろう。

一台のマッハの整備を 経験者やプロが悶絶しながらも解決しようとした実例であるが どうみても一筋縄で行くようには思われないだろう。
かくしてマッハの整備は矛盾と試行錯誤 苦労 ジェニーの末 オーナーに経験を残しつつ進行していくものなのだろうかと 心底悩みつつ それではこの「ド素人向けマッハ整備入門」は何をすれば良いのか?
悩んでいても仕方がない「舟を進めるしかない」ひとつずつでも積み重ねよう ということでキャブレターの勉強をはじめることにする。



各車種のキャブレターの特徴について…
最初にH1のキャブ

キャブレターのメンテナンスの実践のはなしをじっくりする前に 各車種(250から350そして400やら500 750と色々ある)ごとの 大まかな構造の違いと その特徴について 色々と実際のキャブを眺めてみたいと思う。 まとめようと思えば思うほど まとまりの無い とりとめの無い内容になってしまって そんなわけで記事が進まなかったのだ…。
まずは500のキャブ(VM28)を中心に観察して 話をすすめることにする。


キャブの裏側から見た穴が どこがどうつながっていくのかは プロローグをみていただくことにして
軽くおさらいしつつ 掘り下げていくことにする。
キャブレターというのは VM28なら28の 基本のインゴット(金属のカタマリ)みたいなのが存在して それを各車種の仕様(メーカー設計の)に沿って
加工されて 車体に積まれるのだと思われる。
青矢印なんかは 他の車種仕様にするときの ドリリングのガイドディンプルなんだろうなと思われる。
あまり知られていないかもしれないがA7(350CC)の後期のキャブはH1とおなじVM28だったりする。
ただしエアーベントはクリーナー側の上部に開口しないで 赤矢印のところにニップルをつけて エンジンカバーの外(Aシリーズはロータリーディスクバルブで キャブはカバーの中にある)にチューブで連結してある。
黄色矢印は 前項で「ピラミッドの盗掘穴」と勝手に表現した穴で 製造上あけた穴を 真鍮の棒等で塞いだものである。
H1のエアーベント孔の話が出たので 写真を挙げておく。
前項で触れてあるが フロート室の内部は 大気圧に調整されている。
調整はフロート室底のドレーンチューブが大気開放されていて もう一経路は
二つ上の写真のキャブレターボディ底の赤矢印の穴から左写真のミドリ矢印のように通じていて 一つしたの写真の青矢印部分に開口している。
この写真のように H1だけが フロート室からここに向けて開口している。
ミキシングチャンバーよりもエアークリーナー側の天井に開いている。
何故そんなことをしてあるのか 色々と考えたり訊いたりしてみた。
エアークリーナーが着いていることで 吸入圧が低くなった時に それをフロート室に反映させるためだとか スロットルバルブが閉じたときの圧変化を フロート室に反映させるためだとか 推測はいくらでもでてくるが
決定的な根拠は思いつかないし 与えられることはなかった。

写真は 後期A7のVM28キャブで矢印のようにH2等と同様のニップルが設けられて
そのニップルはキャブレターカバーの外 大気に解放されている。

(余談であるがA7のキャブの写真は 走行中にフロートバルブ全体が緩んで落ちてくると フロートのべろに強く当ってガソリンが落ちなくなるというトラブルの写真)

A7のVM28は 吸入口の形状がH1とちょっと違うことに気がつく…

参考に貸してもらったKR750レーサーのキャブの写真であるが このレーサーのキャブをみるとH1のキャブと同様にエアーベントは吸入口の上面にチューブでわざわざバイパスしてあるのが分かる!
ロードH2にはない経路を レーサーにはわざわざ増設してあるというのが興味深い。
スロットルバルブ全開で吸入する時には 気化したガソリンを含んだフロート室の空気を補助的に吸入するように考えられているのかは推測の域を出ない。
「ブローバイさせる」という概念は どこまでいってもシロートには計り知れないものだなと。

ブローバイで思い出したが フィアット500の謎のブローバイも眺めておく。
エアクリーナーがあって キャブにインレットパイプでつながっているけれども シリンダーヘッドカバー(赤矢印)の圧逃がしのチューブ(紫矢印)は なんとエアークリーナーにつながっている。
ヘッドのバルブ周辺の圧と エンジンオイルの気化したようなガスを なぜに?エアークリーナーに逃がしているのか?シロートには謎。

このあたり 「なんで?どうして?」という概念はどこまで行ってもシロートには推し量れないものがある。

はじめの方の 側面写真の反対側の写真を挙げておく。

青の矢印は エアーベントを設けるためやエアースクリューを入れる穴用のガイド穴である。
水色の矢印は スロットルバルブのまわり止めピンを圧入してあるところで 後述するが H2のキャブでは 樹脂のピンを使ってあったりして興味深く またトラブルの元になっている。
黄色の穴は 前項で紹介したチョーク機構を通すための製造上の穴だ。

スロットルバルブをまたいで クリーナー側からエアーをひいて チョークプランジャーが塞いでいる穴から ガソリンを吸い上げて スロットルバルブのシリンダー側に開口している。

後述するかもしれないが H2の初期キャブと刻印H2-2のキャブに変更されたところで スタータージェットが40番から70番に変更した なんて資料には書いてある。
MJみたいなものが圧入されているようには見えないので チョークプランジャーが塞ぐ穴の径が変わったという意味なんだろうか?

キャブの刻印の話が出たので写真を挙げておく。
チョークワイヤーの取り付く基部に小さく打刻してある。
年式によって刻印も変わっている。
H1なら 無刻印〜KA1 KA2 KA4 ときてKH5とか言うのもあるらしい。
そのあたりはプロジェクトH2のHPにも記載されているので是非参考にして欲しい。

キャブのボディ自体は 後期になっていくほど強化されて改良されているので
微妙に細部が異なっていたりする。
主に強度を上げてあるというのと パーコレーションの対策をしてあるように思われる。
基本的に 内部のセッティングは年式のセッティングテーブルに添って行えばよいと考えているが 
同じ刻印のものを三つそろえるのが好ましいのではないかなと思われる。

キャブの裏側の写真であるが この穴が フロート室ドレーンとつながっている。
オーバーフローする場合は この穴からガソリンが出ていくことになる。

前項でも挙げたが この穴が製造上の失敗で 奥で開いていないものもあるので
オーバーホールする場合は ちゃんとつながっているか点検する必要がある。
そんなバカなと思うかもしれないが 結構見つけているので注意♪

エアークリーナー側の吸入口の写真をみると ドレメルでエアー通路を削ったのを思い出す。

このキャブは左と真中用のキャブで エアスクリューが左にあって 負圧コックの取り出しがない。

前項で七転八倒しているので 軽くおさらいだけしておくが 紺矢印はパイロットジェットにつづく穴でありエアースクリューが入っている横穴でクランクになり 真鍮棒で蓋をしてある穴からPJに続いている。
黄緑矢はニードルジェット(NJ)に続く穴であり スロットルバルブの奥に赤矢印のジェットニードル(JN)が見える。
NJを外し(外し方は後述) その穴から光をいれると 黄緑矢の穴の奥のエアージェット(圧入してある)を通して光が見えるはずである。
しかし 冒頭に挙げたそえちゃん号の例を見ても スラッジで詰まっている車両も多いようだ。
パイロット系のエアー通路もメイン系のエアー通路も あくまでも良い混合気を作る目的のもので まったく詰まっていてもエンジンはかかる(それなりに走る)らしい。
時々「エアスクリューをいじっても アイドリングが変わらない」というヒトがいるが これはエアー通路が詰まりかけているのかもしれない。
そえちゃん号で体感したことには 詰まっているエアー経路は ガンで吹こうが パーツクリーナーを吹こうがびくともしないし 荷造りのぺなぺなワイヤーごときでは まったく通る様子がなかった。
黄色矢印はご存知のチョークのエアー経路である。
シリンダー側からキャブを見るとH1のキャブはベークライトで固定するようになっているのが見える。
インシュレーターが金属で ベークを挟んで締め付けるようになっている。
時々このベークが「取れてしまった」と連絡をもらうが ベーク部分の修復はシロウトには難しいのではないかと思う。
キャブレターの専門店に相談してもらっている。 
スロットルバルブのエンジン側に 小さな青矢印の穴が見える。
これはPJからあがってきた穴であり パイロット系(スロー系と表現するヒトもあり)の経路である。
スロットルバルブがおちきった状態(アイドリングの状態)に近くても ガソリンを供給できるようにしてあるのがパイロット系の役目であるが
レクトロン社のレーシングキャブなんかは パイロット系がなくって メイン系だけで
エンジンを回していたりする。
当然 アイドリングは安定しにくいだろう。

少しスロットルバルブを開くと PJの直上の穴(黄緑矢印)と ニードルジェット(水色)が見える。
スロットルなる部の開角度によって メイン系のガソリンが担う度合いが増えるというわけである。
「メインジェットを上げてある」とか ワクワクしてイメージしてきたが んじゃMJはどこにあるんだというと NJのフロート室側につけてあって 「NJで吸い上げるガソリンの入り口」なのである。
当然内径が大きくなると 吸い上げる口が大きくなるのでガソリンは濃くなる。
ただしイメージとして メインジェットがミキシングチャンバー内でガソリンを噴出していると感じているヒトも多い。

プライマリーチョークが3ミリだとか8ミリだとか言っているのは NJがミキシングチャンバーに飛び出ている部分(水色矢印)の長さを言っている。

右用のキャブをシリンダー側から覗くと 写真のように丸い穴が貫通している。
これは H1H2シリーズに採用された負圧コックの取り出しの穴である。

負圧コックのダイアフラム構造をあまりよく理解してないので 適当にしておきたいが ここから陰圧で吸入することで ガソリンコックが開いて フロート室に重力でガソリンが落ちてくる仕掛けになっている。

負圧 という名がつくので「ガソリンを吸いおとしているんだ」とよく勘違いされている。

えてしてコックのダイアフラムが傷んでいたりして 陰圧がかかっていない(エンジンがかかっていない)ときにも ダラダラガソリンが供給されつづけていることもあるので注意。 
ただし コックがダメなので オーバーフローするというのもちょっと勘違いで オーバーフローするのは あくまでも油面を調整する機構 すなわちフロートバルブがダメだということを基本的に理解して欲しい。

これは右キャブレターの 負圧の取り出しで このキャブにはピンゲルのコックを使用していたので 負圧の取り出しを閉じている。
ただし写真は あまりに良い例ではなく ボルトねじで蓋をすると ねじ山からエアーを吸うこともあるらしいので注意が必要。

あとこの負圧コックへいくチューブを間違って ガソリンが落ちてくるチューブと間違って接続すると シリンダーからクランク室に直接ガソリンが入るので リキッドロックすることがあるので絶対に間違いないようにする。

H1ないしAシリーズ(GAも)のキャブの特徴として アイドリングの調整をスロットルストップロッドで行っている。
通常よくあるキャブ(H2やSシリーズも)は アイドリングスクリューをバルブにねじ込むことでスロットルバルブを上下させてアイドリングを調整しているが
H1は スロットルバルブを「釣り上げる」棒がついていて それで調節しているということである。

赤矢印はアクセルワイヤーが入る部分で 青矢印はスロットルストップロッドをぶら下げたねじになっていて 小さな割りピンでロッドを固定している。

すなわち この写真のように ロッドで「釣り上げる」ことでスロットルバルブを持ち上げて アイドリングを調整しているのである。
だから このアイドリングを調整するツマミを時計方向に回して「ねじ込む」と スロットルバルブは下がるのでアイドリングは下がることになる。
よくある(H2やSシリーズの)アイドリングスクリューは「ねじ込む」とスロットルバルブが持ち上がってアイドリングが上がるので ちょっと注意する。

その調整部分を載せたミキシングチャンバートップをミキシングチャンバーキャップ(リングみたいなの)で固定してある。

スロットルバルブは ミキシングチャンバーの バルブの回転止めピンに入るように挿入してふたをすると スロットルバルブのカッタウェイ部分がエアクリーナー側に来るようになっている。
これはH2もそうなっているが S2とS3のキャブは左と中のキャブ そして右のキャブは スロットルバルブの回り止めスリットが逆になっているので注意が必要である(後述)。

ジェットニードルは この状態で振ると ぶるぶる震えるのが正常で Eクリップをむりにかしめると 自由に動かなくなり NJの偏磨耗につながる(らしい)。

スロットルバルブを裏から観察すると 青矢印はストップロッドで釣り上げている穴であり 赤矢印はアクセルワイヤーが入る穴である。
大きい方の穴からタイコが入って 溝のあるほうで止まるようになっている。
ここで意外と知らないヒトが多いのは ワイヤーを紫矢印の穴からスロットルバルブに通した後 ミドリ矢印の穴で固定するが
青矢印の(スペクトラムのマークみたいな♪)スロットルバルブスプリングシートを写真の位置からドライバーなどで時計回りに少し回転させて 紫矢印の穴を蓋してしまうことが大事である。
これをしていないと アクセルを急激に戻した時にワイヤーがすっぽ抜けるへっぽこをやらかしてしまうのである♪

ワイヤーが入っているところに スプリングシートを矢印のように回転させて 穴を塞いでおくわけである。

それをしないと〜

バキュームカーのおっさんの手ではない。
大雨が降ってるのである!

ド大雨の中 アクセルワイヤーがすっぽ抜け!

…もひとつ すっぽぬけで「みょ〜〜〜〜」となること必至 である。

一説には アクセルを開けてもついてこなくなるので 
「すわ!手裏剣か!」
と思うらしい…。

あと H1のキャブで注意するのは ロッドでスロットルバルブを釣り上げているので ロッドが曲がると スロットルバルブが落ちきらなくなる(スムーズに動かなくなる)ので 曲がりがないか注意にして検品する。

キャップで締め付ける際にトップ(蓋の部分)をうっかりよじると 矢印のようにワイヤーとロッドがクロスすることがあり その時にロッドをひん曲げてしまうことがよくある。

トップはつめをキッチリとキャブボディに嵌めて締め付けるようにする。
赤矢印のガスケットは ミキシングチャンバーのところで二次エアーを吸わないようにあるものだが 部品番号設定がないので 欠損している車体もあるので注意してみて欲しい。
A7のVM28キャブには このガスケットがないし つけるとアイドリングを調整できないらしい…。

ミキシングチャンバーのところの写真を出したので キャブレター修理の限界の写真も加えておく。

H1のキャブはチャンバーキャップ(リング状のもの)をねじ込んで蓋をする構造をしているが そのねじ山がだんだん傷んでくるのがよく見られる。
リング側のねじ山も減るが 赤矢印のようにオス側のねじ山もだんだん痩せてくる。
最後は青矢印のように棚落ちするのであろう。 ここまでいくとプロのキャブレター屋さんでも修理不能であり 別のキャブを探すことを考えた方がよい。

キャブレターは 鋳造で作られているので スも多い。
小さなスはデブコンなどで埋めて使うのもよいが…

スができているところを 削ってデブコンを盛ろうとしたら どんどん奥に穴が開いていったという例。

うまくデブコンを盛って修理してあるが こういうキャブもできれば「別のキャブ」を探して使用した方がいいのかもしれない。

キャブレターの特徴についてH1編 H16年12月28日編集
H17年1月6日修正増補




キャブレター編 キャブレターの特徴H2編へ
クラブハウスに戻る