マッハIIIピンポイント整備入門

クランクケース整備への道編 序章

150度の謎

今回は わたし自身が長年の疑問だった「キックリタンスプリングを150度巻いて組む」「それ以上巻いちゃダメよ」「巻かないで組んじゃダメよ」という謎を解明し さらにマニュアルに書いていない(イラストではさらに紛らわしく描かれている)ために実際落とし穴にはまってしまった例をあげて 正しい組み方を紹介してみようと思う。
なにぶんA1のクランクケースを見本に挙げているが 構造としてはH1H2またSシリーズにも応用できると思われる。



さて 思い余ってクランクケース開けにまで発展してしまった青影のレストア(修理か?)であるが この際前々から謎であったキックメカの仮組みをしてから本番のケース閉じをしようと思いたった。

よくみるとキックリタンスプリングはマッハ用として作ったものと全く同じものなので これを使って組んでやろうと 何気なく元の状態を観察しないでばらしてしまった。
リタンスプリングをシャフトに固定する穴は シャフトに貫通しているので どちら側から刺せばいいのか?と何気なくイラストを見て差し込んで組み上げた。

上のイラストのキック爪の収まる部分(青矢印)とスプリングのシャフトに固定するシッポの位置関係をみてスプリングを固定し スプリングガイドを入れて組み上げた。

(これは間違って組んだ例を挙げているので注意してください)

キックリターンスプリングの「シッポ」とクランクケースにはさんで固定する「耳」はスプリングの同じ位置に出ている。

シッポはキックシャフトに(赤矢印)耳はクランクケースの溝(青矢印)にはめて挟んで固定されることになる。

リタンスプリングがすでに変形しているものは ケースを閉めるときに収まりが悪いことがあるので潔く購入して交換する(とサブリミナルにCM)。

(もし耳を挟む部分の角度が合わなくて収まりが悪い場合は 別のものと交換いたしますのですぐにお知らせください。)

耳をクランクケースに挟む部分に置いたときに キック爪(キックメカのラチェット機構をフリーにするスイッチでこれはAシリーズにはあって Hシリーズではストッパーアームです)が赤矢印の部分にあることに注意。

さて クランクケース上下を合わせて 問題の150度反時計回りに巻いてストッパーボルトをねじ込んだ が どこにも引っかかる部分がなくてキックシャフトはまた巻いていない位置に逆戻りしてしまう…。
どうもおかしい!SMを読み直すが ストッパーボルトは シャフトの一体どこに当たって巻いた状態で止まるというのだろう? どこにも書いていない…。

このまま組み上げてしまうと スプリングを巻かないで組むことになるので キックペダルの重さにまけてだら〜んとなってしまう。

思い余って もっと巻いて組んでみるか!
…と考えては絶対ダメ!というのがこの記事の本題。

さてタネあかし…

パーツ表の絵をちょっと参考にしてスプリングを組むと写真のようになる。
スプリングの耳とキック爪(Hシリーズではストッパーアーム)の位置関係はこのようになるが これは間違った組み方だと注意。

正しくはこの位置関係になるように注意して組む。
キックリタンスプリングを交換した場合も 元々組んであったスプリングでも クランクケースにキックメカを入れる前に確認して欲しい(元々間違って組まれていることもあるらしい)。
キックメカをクランクケースに収めたら 耳とキック爪(ストッパーアーム)の位置関係が写真のようになるのを充分確認する。
そして クランクケースを閉じてキックシャフトを回してみた。 150度回していくとキック爪の部分(青矢印)がストッパーボルトの入る穴を越えていくのが見える。
では実際に150度巻いてみることにする。 キックボスのキリカキに注目。

150度巻いてストッパーボルト(赤矢印)を締めると 少し戻ってキック爪の部分で止まることになった。 Aシリーズではストッパー爪がボルトで押されてラチェット機構が解除されるようになっている。

ここでひとつ上の写真と見比べると リタンスプリングは約120度ほど巻かれた状態で固定されることに気がつくだろう。

ただしシッポをシャフトに入れる穴の逆側に入れて固定した場合 150度巻いても止まるところがないので 巻いていない状態でエンジンが組みあがるか 巻いた状態にするには180度回して さらに150度巻いてはじめてストッパーがかかるようになる。
この場合 キックをすると 巻きすぎでスプリングが変形したり 最悪耳の部分が外れてしまうこともあると思われる。

キックリタンスプリングを組んでエンジンをかけたら キックがだら〜んとなって再びクランクケースを開けることになった 開けたらスプリングが変形して潰れていたというクレームを受けたことがあるが ひょっとすると このスプリングの組み方が180度間違っていた可能性がある。

また 150度巻いて組んでカバーをつけたらシャフトが偏芯しているのか オイルシールが新品で硬いためかペダルの戻りが悪くて 故意に180度逆の位置でコイルを固定すると言う技もあるらしいが オイルシールのリップにシールグリースを塗布して対応した方がよいかもしれない

 

Aシリーズのオーナーは少ないので 締めくくりにHシリーズ用の写真を載せておくことにする。

緑の矢印は キックストッパーアームと勝手に命名したとして この部品図もアームとリタンスプリングの耳(青矢印)の位置関係は間違って描いてあるのに注意。

そもそもイラストのキックリタンスプリングの耳とシッポの位置関係もおかしい。
本来 写真のように 同じ位置に耳とシッポがあるのに イラストでは90度ずれた位置に描かれているのも怪しくみえる…。

H1のキックメカの写真…

この写真はスプリングの耳と ストッパーアームの位置関係を間違って組んだ例。

キックメカをケースに組んだ時に ストッパーアームが矢印にあると反時計回転(写真はクランクケース上下逆になっている。作業中は頭がこんがらかって組んでから反時計回転は逆さでどっちかな〜と案外迷うが 上下逆でもスプリングを巻く反時計回転は同じだと理解しておく)に巻いてストッパーボルトで止まる位置にしようと思えば180度と90度以上回さなければならないことがわかる。 すでにスプリングが伸びてしまっているので180度と150度も回さなくてもよくなっているが…。

耳が少し浮いているので アームが少し反時計方向に倒れているようにも見えるが 耳とストッパーアームは この位置関係になるようにリタンスプリングを組むようにして欲しい。
最後に キックシャフトの擦動部の面には ペーストガスケットを塗って閉めないようにとKA師匠の伝言を残し 150度の謎は終了…




新キャブレター編につづく
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