自動浮沈


遅めの昼食から帰ったジローは 今や西日が入るジロー模型店のサッシを開いた。
エアコンは稼動している証である音をたててはいるが その仕事は徒労に終わっていた。 ふと店内を見ると ネクタイ姿の中年が床に座り込み模型の箱を開けていた。それにしても 中年とは幾つから中年なんだろうと その異様な光景を眺めながら ふと考えてしまった…。

 

偽ジロー: 「ジローさん たいへんザンスよ! あのオッサン なんやらブツブツ言いながら 座り込んで模型の箱を片っ端から開け始めたザンス〜。 ミーは あんな危ないオッサンはごめんザンスよ〜。 そんなわけで 店番代早くよこすザンス!」
 
ジロー: 「店番なんかになってへんやんけ。しょ〜もないことゆうとらんと はよパチンコ代かえせよな〜。 お客さん なんか模型探しているんですか?」
 

その男は 営業の外回りをしていて ふと模型店のなかに迷い込んでしまったのだと言う。
 
「昔買ったロボットプラモに 不自然な日本家屋がついたキットがあったと思うのだが それがなんの模型だったか思い出せない。 ガンダムかなんかのキットだったと思うのだが…」
 

偽ジロー: 
「そんなもんある訳ないザンス! だいたいガンプラ(注 バンダイのガンダムのプラモをこう呼ぶらしい)には パイロットすら付いてないんザンスから〜」

ジロー:
「いやいや それがそうでもないんやね〜」
 

 


 



 

一世を風靡したガンダムの二匹目のドジョウを狙ったアオシマの意欲作 イデオンシリーズ。 植民星で発掘された巨大ロボット、イデオンとその母艦ソロシップに乗って 異星人と戦うしか生き延びる手段がない流浪の民の え〜い とにかく シリアス路線の番組だったはずが…


アオシマにかかれば…イデオンの重機動メカに混ざって アオシマのオリジナルロボット「アトランジャー」がさりげな〜くラインナップに加えられている。

アオシマ侮り難し!

アオシマも このイデオンから 本気で精巧な金型を作り始めている。 とにかくイデオン以前はオモチャ然としたキットしかなかったのだ。


しかし よ〜く見てみると あったあった!

あのシリアス宇宙SFアニメのプラモに1970年代後半の夢のマイホームのような一戸建て住宅が付いているのだ!
パイロットのギジェは付いていなくても 家付きであるところにアオシマスピリットを見た(なんのこっちゃ) 。


 

では定番の進行…

 

ジローさん 本日はお店の中でご迷惑をおかけした上 私の模型トラウマまで解消していただき 有難うございます。 これで私も浮かばれます と言いたいところですが実はもっと深いトラウマがありまして…。
 
私が外回りの営業の途中で ジロー模型に吸い込まれるように入ってしまったのは お店がいつか見た懐かしい模型屋の風情だったからだけではありません。
実は 私は根っからの潜水艦プラモ狂でした。 かつて子供の憧れはテレビゲームではなく 間違いなくプラモだったと思いますが さらに夏休みと言えばミズものプラモでした。 その中でも最も私たちが熱狂したのは自動浮沈プラモでした。 かつて模型屋には 数々の自動浮沈潜水艦の長細い箱が積まれており 長時間の「買うた止めた音頭」の末買って帰り 何日にも分けて組んだものでした。 その潜水艇も お風呂や銭湯で遊んでいるうちは良かったのですが 池や川に持っていくと回収不能に陥り 夏が終わってしまったものです。
 
ああ自動浮沈潜水艦!
どこどこの池の底には 無数の未帰還艇が沈んでいると噂された自動浮沈潜水艦!
この沈みっぱなしの私の売上実績を向上させてくれる自動浮沈潜水艦(このへん意味不明)は 今でも手に入るのでしょうか?ジローさん この景気は底と言われつつ ぜ〜んぜん救われないどころか 沈む一方のこの世をどうか助けて下さい!

小沢光輝さん 40歳 保険外交員


 

いらっしゃいませ 小沢さん。
 
私や自動浮沈潜水艦が景気を回復させることができるとも思えません(苦笑)が プラモが売れたら 私はJIRO’S BARの内装工事をすることができますので この宙ぶらりん生活から抜け出せるかもしれません。 暑い日が続きますが 張りきって行きます。

 
 


東京シャープ イ号

これは70年代前半の 自動浮沈潜水艇が百花繚乱とばかりに模型屋の店先に並んだ頃の一品。

電器会社のシャープは大阪本社であるが わざわざウチは東京のシャープじゃ!という社名がグー。
さらにはこの「5米中自動浮沈4〜5回確実!」と誇らしげに書かれた煽り文句が最高! ここまで言っちまうと当時の純粋なお子様でも ほんまかいな〜と疑ってしまったに違いない。(ゴム動力)


イッコー模型 スペエクター6号



この頃の模型メーカーは かつての浜松の単車メーカーのように無数に存在したのだろう。
イッコーなんて聞いたこともないや!などと言うなかれ。 イッコーは比較的メジャーなメーカーである。


 


 
 
さて まずこのスペエクターであるがこのネーミングはどこから来たのかと邪推する。
恐らくはこのプラモを開発した頃は 007サンダーボール作戦がロードショーされ あのイマイ科学がスペクターの水中戦車やフロッグマンを模型化しヒットを飛ばしていたのだろう。 ではなぜスペクターとちゃうねんと言うツッコミが入るところだが 一応イアン=フレミングの版権を取っていないので ちょっと名前を変えて出してみました〜というイメージ便乗模型だったのだろうか。
それにしても スペエクターはスペエクターなのである。 ところが これが組んでみてビックリ! 自動浮沈バッチリなのだ!
 


浮上走行した艦は 潜舵が潜航に切り替わり 潜航をはじめて潜望鏡深度に達すると潜舵が浮上に切り替わりゼンマイが解けるまで自動浮沈を繰り返すのだ。 少しデザインが違う7号も姉妹艦として存在したが たいした違いはなし。

 


バンダイ サブマリン707 C級

出ました!モーター自動浮沈潜水艦の決定打!
プラモ屋の前で泣こうがわめこうが買ってもらえなかった人も多いはず。ここで逢ったが百年目だ!
またこの箱絵が う〜ん最高ねえ…


当時は お子様の懐具合でA級 B級そしてC級ときっぱりランク付けされていた。 C級を買う感覚は 中小企業のシャチョーさんがクラウン買う優越感に近いものがあったに違いありません。 そして見よ!特許自動浮沈調整機構付きなのだ!
ホンマに特許とってたか?なんて野暮は抜きで では どのような仕掛けで浮沈の調整をしたのだろうか…設計図を見てみよう。


さて設計図を開いてみると お子様モデラーの天敵「焼き留め」をいともアッサリとオーダーしている。 流石 C級だ!


自動浮沈をコントロールする機構はいつもブリッジにあった。 そして そこには何やら怪しいボルトナットが仕込んである。 なんだかスペエクターとはえらい違いだぞ。なにせC級なんだもんな…。


それでそのボルトナットで 潜舵の動く角度を調整していたのである! すなわち 浮上する際の昇降舵の角度を浅くしたり深くしたりして 浮沈のサイクルを変えたのだ! う〜ん そうだったのか これがC級の秘密だったのね。 アイデアは良いんだけれど トホホホ…。嗚呼C級…



 

ミドリ ビッグシービュー号
 


絶版プラモが続いてすみません。
これはスティングレーと並んで当時のお子様方が一度は気が狂うほど憧れたモーターライズ潜水艦である。 このSEA VIEW号はシュービューとかシュービーとか自由勝手に呼ばれているのが特徴。 この頃の潜水艦は 特大、大、小と お子様の財布具合によって買いやすい様に数種類出ていた。
このビッグシービューは シービュー号の中でも最も大きいモデルだったと思う。





しかし有名なエピソードととして このひとまわり小さいモデルでは 艦首に付いている小型潜水艇「フライングサブ」が特大よりも大きく、ビッグを買えなかった子も「フライングサブはこっちの方がでかいぞ〜」と自慢することができた。

そして 大きいことは必ずしも良いことばかりではなかった。 このビッグシービューを お風呂で遊ぶことは大きさからも無理だった。 少しも走らないうちに壁にぶち当たってしまうのだ。
そして銭湯に持ち込むには目立ちすぎて オヤジに阻止されるのが常だった。 楽しくお風呂で遊ぶにはゴム動力の「小」がベストだったかもしれない。 このビッグシービュー号が自動浮沈しつつ進む勇姿を見た子供は 殆どいないと言って過言ではないだろう。
実際ちゃんと組めて 上手く自動浮沈する保証はないので このテの絶版プラモは組まずに イマジネーションに耽けるのが良いのかもしれない…。


 

※ これら 絶版潜水艦達はあなたの街のジロー模型の棚で 買われて行くのをじっと待っているに違いありません。 どうしても欲しくなった方は ジロー模型を探してみましょう。

 
 
 

今でも買える自動浮沈潜水艦 その1




 

童友社 イ号400 Uボート
(モーターライズ)


これは比較的ふるい金型であるが けっこう組みやすく しかもちゃんと自動浮沈することが知られている。

実際に組んで琵琶湖を航行させたことがあるが 見事に自動浮沈を繰り返し 猛スピードで視界から消えていった。 回収不能に陥っても また組めばいいさ。 きっと今ごろは大阪湾を航行しているのだろうと妄想に耽けることにする。
まずまずの大きさがあるので その筋の達人はラジコンを仕込んで楽しんでいるらしい。 興味のある人はインターネットで検索してみよう!

 
 


今でも買える自動浮沈潜水艦 その2


 

タスクフォース サブマリン707

これは 当時の潜水艦小僧のバイブル 小沢さとるのサブマリン707の模型化だ。
707も青の6号も 最近になってリバイバル新型がビデオやマンガに登場しているがやっぱりこのデザインでないとあかんやろと思う。 実はこの707も 当時からの潜水艦モデラーがわざわざ金型を起こして再版したものである。 ちょっと組みにくいのは当時のキットを参考にしているので致し方無しであるが 頑張って愛で組み上げて欲しい。

完成してもなぜか船体が重過ぎて沈んでしまったが どうやら今時のマンガン電池を入れると重過ぎるらしく ナショナルの赤電池を探していれると上手く自動浮沈した。 当時の電池は紙巻だったりして ずいぶん軽かったのだろう。



 

タスクフォースは ジュニア707も出しており これはゴム動力なので 子供と組んで 夜は風呂に持って入るのが正しい楽しみ方かもしれない。


次回作にも期待してしまうので みなさんもぜひ買って下さい。


さて 楽しんでいただけましたか? 潜水艦も世の中の景気もきっと浮沈を繰り返すものでございます。 ここらでちょっと自動浮沈にチャレンジしてみて下さい。 それにしても幾つから中年なんでしょうね…

 

今回は特別ミズモノ特集だったので 特別にジローのトラウマ模型を紹介しましょう。


ニチモ キングシャーク

このキットは70年代に発売され 夏になれば頻回に再版されていたが 80年代後半にニチモはプラモ業界からほぼ撤退したことで 永らく店頭から姿を消した傑作キットだ。(ニチモは現在 100円ショップへ卸すプラスチック製品などを作っているらしい。)
万能戦車キングシャークが 海底を走行している活躍図が描かれてある。 んなアホな!戦車が海底を走るとは! …そんなことないのである。 このキングシャークは地上をモーターで走行するだけでなく 水面をスクリューで走り バラストに注水することで水底を走るのである!!


箱絵をよくみると WE ARE NOT ALONE 地球(宇宙を代えてある!)にいるのは我々だけではないと言う 某未知との遭遇の有名なコピーが書いてある。 さらにはUNKNOWN ENCOUNTER SERIESE 1と適当な英語が書いてある。 ヒットした映画に便乗して売上を伸ばそうとしたのだろうが 鮮やかに外しているのが笑える。 逆にこれがその頃の再版ものだとわかる。
ニチモはこの後もう一度再版したと記憶している。



付属の接着剤アドハチックでしっかりと接着しますと書いてあるが このチューブだけではぜ〜ったいに足らないんだよな。


キャタピラ付近に 空気室が付く。


ポリ製キャップで蓋をするようになっている。水を入れて水底走行 空気を入れて水面を走行した。



先端の針金を押すと背面の脱出ブイが外れ 水面に浮上するギミック(仕掛け)ついていた。


ブイと戦車をつなぐ凧糸を巻き取るリールも付いていた。 このギミックで水中走行して障害物に邪魔されてもブイが浮上し回収することができると信じていたのだが… 無事にブイが浮上するのは五分五分ぐらいだった。
その他 ミサイルと小型ジェットを発射することができた。



駆動系が完成したところで電池を入れて試走させてみたいものだが ぐっと我慢だ。
なぜならボディーが乗らないうちに走らせて仰向けに転ぶと スイッチが折れてしまうのだ! 陥りがちのトラブルであるので気を付けたい。



転輪とスクリューを同時に駆動させるギアボックス。


このテの模型の再版が難しいのは ギアボックスを今やどこの会社でも作ってくれないことだろう。 うお〜再版だ〜と飛びつくと ディスプレーモデルと書いてあることが多い。




キングシャークは現在も人気が高くプレミアつきまくりである。 ニチモからの再版が望まれるが 是が非でもモーターライズで出して欲しいものだ。


 
つづく