ジローは 時間が経つのを忘れて どの模型にするか品定めをした。 何度眺めていても70円以上のものが買えないのは分かっていた。 しかし模型の箱絵と設計図とランナー状態の模型を眺めてひたすら完成状態をイメージした。 そしてその至福の時間が永遠である事を祈った。 また手にした模型達とその日買って帰るであろう50円のゴム動力チーフテン戦車のギャップを埋める事ができないかとあれやこれや頭を巡らせた。
「棚から出した模型はそこの椅子の上に積んどいてや。 メチャメチャに積まれたら箱がつぶれる。」
苛立ちを裏に隠した声で店のオッチャンがジローの妄想を破った。
ジローはこのオッチャンが苦手だった。 ジローなりに常に言葉遣いに気をつかい少しでも気に入られようと努力していたがこのオッチャンには通用しなかった。 時々学校の友達を五郎模型に誘ったりしたのは少しでも店の売上に貢献できればとの 彼なりの配慮だったのかもしれない。 しかし常に逆に悪意さえ感じられる応対を受けていた。
「設計図は一番下にもどして箱を閉じてや。」
「どうせ組めないんやから 開けてみても一緒やろ。」
「組むのん手伝うのは いつもウチで買ってくれている子のんだけや。」
オッチャンの謂れのないイヤミを耳にするたびにどこの模型屋もこんなにもオッチャンが怖いのだろうかと悲しくなった。 ジローはそのちょうど10年後には模型屋だけでなくバイク屋も怖いオッサンばかりだと気づく事になるのだった…
自分の小遣いが少なくて悲しい時とやさしいオバちゃんではなくてオッチャンが店番をしていて辛い時は「極光」を見上げてイマジネーションに逃げる事にしていた。
いつでも「極光」は模型店の一番高いところから無表情にジローを見下ろしていた。 「極光」は その設計図を見ることはおろか触れることも叶わなかった。
ジローは「極光」の側面の絵をだけ見上げて その到底手が届く事の無い価格とそれによってもたらされるであろうギミック(仕掛け)やアクションを想像して楽しむことにしていた…
少しずつ暴露されていく幼少ジローの模型への憧憬と深遠なるトラウマ! そして またしても恐ろしい模型屋のオッチャンと習字の先生が幼少ジローを襲う! あやうし幼少ジロー!そして謎の「極光」模型とは?
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