これは墨の色だ 墨の色は黒…黒は墨の色…
お手本の文字の形を 如何によく似せて書くか いや 「なぞる」かがジローにとっての「習字」であった。 一応買って入った半紙が無くなれば その日の練習は終わりだった。
あと3枚 あと3枚…
練習用半紙が終われば 清書用数枚を仕上げておしまいだ。
帰り際 師範に月謝袋を渡した。 月謝袋の内容を確認され 師範のはんが押されて返されたものだ。
「これ 500円入れ間違っておられたので 入れてあります。 おうちに持って帰ってください。」
月謝袋には500円札が 一枚入っていた。
この500円さえあれば ミドリ商会の地底戦車アトラスを買って さらに夜光塗料も買える! 夜光塗料とは五郎模型の陳列ケースの中でも ひときわ異彩を放つアイテムで 5センチほどのガラスの管に入っており 両端をコルクで栓してあった。 聞いたところによると この塗料を爪楊枝など(本当は筆)で塗ると その部分は夜 グリーン色に光るというものだった。 目覚し時計の針や 電灯のスイッチのおもりのように 思い通りのものを光らせることができるのかと思うと その使用方法が次から次へと浮かび上がった。 さらには蛍光塗料はトリカブトの根から抽出したものなので 誤って舐めると間違いなく死亡するものらしいのだ。 手を伸ばせば届くところにある宝物をジローは拒むことを 既にできなくなっていた。 しかし 間違って入っていた月謝をネコババすることがマズイこととも 頭ではわかっていた。 でもどうにも止まらない!
ネコババしてプラモを買ったとする。 しかし 習字の師範から家に電話があって 500円間違って入ってましたよ ちゃんと受け取ってくださいましたか え 受け取っていない? では あの500円札はどこへいったのでしょうね え?どこ?どこへ行ったんでしょうねえ 一体全体!と言われたらどうしよう え〜い ままよ!もう地底戦車アトラスと蛍光塗料は間違いなくロックオンされていた!
ジローは 習字から出ると 一目散に五郎模型に向け駆け出した…
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