極光の頃・後編
 

 

 
ジローは墨を磨っていた。 習字の師範曰く 墨汁では良い字が書けないらしかった。 硯に水道の水を入れて 墨を磨る。 水は少しずつ曇り始め 深みを増していく。 まるで曇り空に雨雲が広がるようだ。
この数週間 土曜日は曇り空が続いていた。 物憂げな梅雨が来ているのは知っていた。 それよりも 前にもまして土曜が憂鬱であった。 習字は少しずつ上達していった。 級も繰り上がり 上級クラスに達しても習字に喜びは感じられない。 それどころか 毛筆は見事な模写をはじめていたが 通常のペン字が目に見えて悪筆になり始めていた。 成績表の片隅に「もう少しきれいに字を書きましょう」と警告されていたが その時は時機が遅すぎた。 ジローの憂鬱は 実は全く違うところにあった。 五郎模型店が閉まっている日が多くなったことだった。 たまたま開いている日があったとしても 模型のことをよく分かっていないおばさんが座っていらっしゃる事が多かった。 おばさんはジローを1人のお客として また子供としてやさしく応対してくれはしたが バンダイのクワガタムシの角を 誤って上下逆にハンダ焼き留めしたものをリカバーしてくれるテクニックは 残念ながら持ち合わせていなかった。 口やかましく イヤミ連発のオッちゃんでないと模型少年の心を埋めることができなかったのは 全く皮肉なことであった。
 

 

 

さて 突然ですが CM…

前編にてちょろっと紹介させていただきました松竹のギララのゼンマイ版が復刻パッケージとともに童友社から再販されました。
これが意外(値段の割に!)と人気爆発で売り切れ店が多いです。まあ、そこはそれ、童友社なのでまた再販されて模型屋に不良在庫されるのでしょう…

ちなみにギララのきぐるみはこのヒットしなかった映画の後に寅さん映画にちょっと使用され廃棄処分になったそうです。


 

パッケージは…懲りすぎだぜこりゃ〜

元もとのミドリ商会の箱に煽り口上バクハツの重箱つき♪
ミドリのSFシリーズとは他にはウルトラモグラスといったドリル戦車ものや地中戦車アトラスなどのメーカーが勝手にデザインしたSFメカがラインナップされておりました。
ドリル戦車シリーズも童友社から再販されておりますが、残念ながらあのギミック(仕掛け)満載のギアーボックスは省略されて眺めて懐かしむプラモに成り下がっています。
どうせならモーターを仕込んで遊びたいよねえ…

パッケージ写真をみると、おおギララってこんなんやったなあと懐かしむ声が聞こえそうだ が…

 
 

当時ものなら一時期30万円はすると言われたギララのキットを当時の金型 箱絵印刷で再現したと言うが…
重箱式のパッケージを開けると うっ、すでに死臭が…

開けてしまったらさっさと組んで、ぜんまいを巻いてジーコジーコと歩かせて、挙句に子供に取られてしまうのが健全かもしれません…(それならウルトラザウルスという怪しいネーミングで再販されて安いほうがありがたい…なんて決して口にしてはなりません)

ミドリ商会からはモーターのギララ(大)も出ておりましたが今回は金型が揃わなかった(壊れていた?)のでギララ(小)のみが再販されたそうです。

「ではこれ 今週のお小遣い…」
 
ジローは70円を母親から受け取った。 
この頃の子供のおこづかいは 多くて一日20円 少なくて5円であった。 これを毎日10円ずつ貰う子供もいれば 1カ月まとめて300円を受け取る子供もいた。 そしてその日は父親の給料日と一致していることが多かった。 そんなわけで お小遣いをもらう日を給料日と呼ぶ子供もいたほどだ。 さらには 一家の家計が給料日前になると苦しくなるように 子供の小遣いも「給料日」前には苦しくなった。 ジローは一週間単位でお小遣いを貰っていた。 
 
習字へ行く前に受け取っていることが多く 級があがったり 母親の財布のなかに10円玉がないときなどは100円にベースアップされたりもした。 週給で小遣いを貰っていたのは なんとなくアメリカチックで 周りの子供らからも意味もなく羨ましがられたりもした。
100円を受け取った瞬間 ジローの脳裏で ストローに入ったゼリーや くじ引きで大きさが決まる黒ボー(1等が当たると 屋根瓦ぐらいの黒ボーが貰えたが いかに甘い物に飢えた子供とはいえ一個全て食べると胸やけがしたものだ。 それゆえ2等ぐらいの大きさが一番嬉しかった。 糸のついたアメダマも1等が当たると大きすぎて口の中が小傷だらけになったので イチゴのカッコした2等が一番有り難かった。 全く 駄菓子屋メーカーの心 子知らずである。)が甘い誘惑を始めるのだった。 

危うし幼少ジロー! 
 

 



 

さてさて「極光」とは英語でオーロラのことです
長いこと間を持たせてすみません
この場合のオーロラとは一斉を風靡したアメリカの模型メーカーの名前です

 

 

モノグラムや レベルよりもマイナーなメーカーで70年代に
倒産の憂き目を見ております。
オーロラ社の模型は1960年代から70年代後半まで
日本に輸入されておりましたが そのラインナップがとんでもなく 有害玩具とまで言われておりました。
なぜかというと ラインナップが少し 上品の反対「下品」だったからでしょう。
私の記憶が正しければ マリーアントワネットのギロチンの模型や(ギロチンが落ちると首が飛ぶ!)中世拷問道具セットのプラモとかもありました。
当時の世論雑誌で オーロラの模型は けしからん店先から追放せよみたいな記事があった気がします。
一方では 2001年宇宙の旅のムーンバスといった思い入れの深い模型があったのも確かです。
とにもかくにも アイテム選択が斬新(?)だったわけです。

 
この頃の海外の模型は 値段的にも 棚の位置的にも(いつも子供の手の届かない高いところに鎮座していた!!)
子供の手が届くところにはありませんでした。だって 1ドル300円ぐらいの頃ですもんね。

当時の子供が毎日10円のこづかいをもらっていたとして1カ月300円、これを 現在の私らの1カ月のこづかい2〜3万円として(え?アナタもっともらってる?いいですね) 「今の自分の財布ならナンボぐらいするか」イメージ価格を添えておきます(あくまでも当時のイメージですので厳密な計算などして驚かせないで下さいね♪)。 
ちなみに上のギララはイメージ価格で1万円ぐらいでした。

 
 
 
 

オーロラの模型といえば やはり初めに挙げなければならないのはユニバーサル映画のモンスター達でしょう。

ドラキュラやフランケンシュタイン 半魚人などがめじろ押しでした。
オーロラの模型の特徴としては 殆どがジオラマ風の仕上げでベースがついていたことです。
当時の日本のキャラクター模型は 一様にゼンマイがついたりモーターで走ると言ったギミック(仕掛け)が仕込んであり常におもちゃの延長上にありました。
しかし オーロラは違いました。あくまでもディスプレー模型で勝負しておりました。
顧客が子供ではなくて大人だったんでしょうね。
この辺りが日本のプラモと一線を画くところでしょうか。
(しかし 当時のアメリカの大人はこんなプラモを買っていたんでしょうか…?)

イメージ価格 15万円

 


 
 

 

当ジロー模型店は 入手困難な絶版プラモはなるべく紹介しないようにします。
そこで 最近再販されたモノグラムのミイラ男を用意してみました っと…おっと これは 元ミリタリー少年の のぶよしさんの作例がイキナリボックスアートになってるんですねえ。
みなさんも どんどん模型を組んで (彼のような!)立派なモデラーに帰り咲いてください。

当時のオーロラの箱には いつも想像力を掻き立てられるような「絵」をあしらってありました。
組めばその絵のようになるということです。足元のコブラも箱絵にあったと思います。(このコブラのような 怪奇シリーズの足元にいた動物ばかり集めた変なセットもあって 当時ミイラ男を買えなかったアメリカの子はおこづかいを集めてそれを買ったのだろうかなあ…日本の50円模型のように…)
逆に 日本のプラモは 零戦の模型でも三機編隊でグラマンとドッグファイトしている絵が描いてあったりしますがそれは 向こうでは「何だこの模型は!箱にはゼロが3機描いてあるのに 1機分しか入っていないではないか!
けしからん!それに火を噴いているグラマンも入ってないとは重ね重ねけしからん話だ!消費者センターに訴えてやる!」と なったんですね。この辺り なんともアメリカ的でしょ♪


 

 

 
 
 

これも 最近の再販ですが 日本の怪獣王ゴジラもリリースされておりました。 ゴジラシリーズとして 他にはキングギドラとラドンがありました。 ラドンのキットのベースには「おかいものなら〜」と書かれたデパートの瓦礫がついており 芸コマでした。
「ちょっと待った!このゴジラで昔遊んだことがあるぞ〜」と言う方がいるかもしれませんが 実は昔のマルサン商会やブルマークのゴジラのソフト人形はこのオーロラ社のゴジラをコピーしたものでした。 顔や太もも辺りにその名残があります。

イメージ価格 20万円

 
 
 

 

外人さんのゴジラのイメージは どうしてもトカゲのようですね。 ジャンレノの出ていたアメリカ版ゴジラもトカゲでしたし。 でも日本のファンのイメージはむしろ犬顔で この模型の顔には何らかの違和感があります。 トカゲっぽい顔したゴジラは キングコングと戦ったゴジラで それ以降のゴジラはみな犬っぽい顔です。 ゴメスやジラースに改造されたなじみ深いゴジラは モスラと戦ったゴジラの着ぐるみです。 いろんな番組で見たので日本人には犬っぽいゴジラのイメージがあるのかもしれませんね。 

あ 今誰かネロンガの話しましたね。聞こえましたよ。
ネロンガの着ぐるみは元々は地底怪獣バラゴンです。 東宝のフランケンシュタインと戦ったあと 虹の卵から生まれてパゴスになり 透明になってネロンガになりウランを食べてガボラになりました。 最後に 東宝のオール怪獣総進撃で 地底怪獣としてパリの凱旋門の下から華々しく登場する花道を与えられておりましたが ドクターストップが掛かり 残念ながらそのシーンはゴロザウルスが代役で出ておりました。 この時すでに 傷みがひどく 東宝へのカンバックはかないませんでした。 最後は再びバラゴンで終わらせてあげたかったですね。 当時「なんでフツーの恐竜のゴロザウルスが地底から出てくるねん?」と疑問に思った坊ちゃん方はこれを機会に納得してやって下さい。


 



 

オーロラ社のキットは晩年 再販キットに蛍光パーツを加えました。 GLOWS IN THE DARKシリーズと銘打たれておりましたが時代の流れにはかないませんでした。 ゴジラのキットでも 顔や手 背びれと言ったパーツだけ蛍光プラで抜いたパーツがエキストラで付いておりました。 模型が局所的に夜光っても困るよねえ。 フルタの百鬼夜行シリーズにも時々蛍光版がついていました。 そういえば あれもジオラマ仕立ての怪奇物です。 百鬼夜行シリーズは オーロラへのオマージュや連歌だったと信じて疑いません。





これは墨の色だ 墨の色は黒…黒は墨の色…

お手本の文字の形を 如何によく似せて書くか いや 「なぞる」かがジローにとっての「習字」であった。 一応買って入った半紙が無くなれば その日の練習は終わりだった。

あと3枚 あと3枚…
練習用半紙が終われば 清書用数枚を仕上げておしまいだ。

帰り際 師範に月謝袋を渡した。 月謝袋の内容を確認され 師範のはんが押されて返されたものだ。

「これ 500円入れ間違っておられたので 入れてあります。 おうちに持って帰ってください。」
月謝袋には500円札が 一枚入っていた。 
この500円さえあれば ミドリ商会の地底戦車アトラスを買って さらに夜光塗料も買える! 夜光塗料とは五郎模型の陳列ケースの中でも ひときわ異彩を放つアイテムで 5センチほどのガラスの管に入っており 両端をコルクで栓してあった。 聞いたところによると この塗料を爪楊枝など(本当は筆)で塗ると その部分は夜 グリーン色に光るというものだった。 目覚し時計の針や 電灯のスイッチのおもりのように 思い通りのものを光らせることができるのかと思うと その使用方法が次から次へと浮かび上がった。 さらには蛍光塗料はトリカブトの根から抽出したものなので 誤って舐めると間違いなく死亡するものらしいのだ。 手を伸ばせば届くところにある宝物をジローは拒むことを 既にできなくなっていた。 しかし 間違って入っていた月謝をネコババすることがマズイこととも 頭ではわかっていた。 でもどうにも止まらない!

ネコババしてプラモを買ったとする。 しかし 習字の師範から家に電話があって 500円間違って入ってましたよ ちゃんと受け取ってくださいましたか え 受け取っていない? では あの500円札はどこへいったのでしょうね え?どこ?どこへ行ったんでしょうねえ 一体全体!と言われたらどうしよう え〜い ままよ!もう地底戦車アトラスと蛍光塗料は間違いなくロックオンされていた!
ジローは 習字から出ると 一目散に五郎模型に向け駆け出した…

 




ポーラーライトとはこれも英語で極光です
1990年代の終末ごろキラ星の如く現れた模型メーカーの名がこのポーラーライツです
上のオーロラ社のマークと見比べてもらうとパロディーのようなマークです

 

ポーラーライツ社は 驚くなかれ かのオーロラ社の金型を買い取り オーロラ社の模型を再販しはじめました。アダムスファミリーの居間のプラモや フランケンシュタインの花嫁といった すでに金型が何処に流出したのか分からなかったアイテムを皮切りに 突如として再販し始めたのです。 そのラインナップをプラモ屋で手にしたファンは「ああ こんなの昔にあったなあ」と脳みその裏の裏に埋もれていた記憶を呼び起こし しばし立ちつくしたに違いありません。 
キットとしてのクオリティーも高く 昔のキットにありがちなバリも少なく 金型を改修したか それでなければ新金型を製品から起こして加えたのではないかと思われるものもあります(金型が傷むほど抜かなかった売れなかった ともとれる)。採算を度外視している(今でもそれほど売れるわけがない)とも思われるラインナップから アメリカの大富豪が趣味でオーロラ社の権利と金型を買って コレクションついでに模型化して売っているのではないかとまで噂されています。

宇宙家族ロビンソンは 60年代の人気テレビシリ−ズでした。 近年ハリウッドがリメイク版を作りましたが さほど日本ではヒットしなかったような気がします。 宇宙家族ロビンソンを日本で放送する時に このロボット(英語版ではただロボットと呼んでいた)の名前を視聴者に公募し 金曜に放送されていたことからフライデーという名前がつきました。 ロビンソンクルーソーの召使いのフライデーともかけたナイスなネーミングです。 
オーロラ社のフライデーは 当時イメージ価格で25万円ぐらいしました。

ちょうどこのような長細いまとまりの悪い箱に入っていて 模型屋の棚の高いところに鎮座しておりました。 隣にはリンドバーグ社の驚異の人体や エアーフィックス社のアポロ宇宙船ルナモジュールなどが整然と詰まれておりました。 
勇気のある子供が思い切って「おじさん あのフライデーの模型みせてえな」と店主にリクエストしても「あかん あれはお前らには買えんし 組めん」とめんど臭そうに一蹴されておしまいでした。


子供らは このような模型の箱の横を見上げて 内容を類推するほかありませんでした。
またニクいことに 完成写真ではなく イメージを膨らませるのに充分な「箱絵」でした。 下から見上げる子供らには
「あのフライデーは あの値段からテレビのようにモーターでキャタピラ走行して 頭のアンテナがくるくる回って光るに違いない」
「いやいや モーターで走るにしても リモコンやエルコンみたいなしょ〜もないもんとちゃうで ぜったいラジコンや」
「それに 手元でボタン押したら しゃべったり 手から怪光線が出て発泡スチロールぐらいやったら穴あくねんで」
ひねた子供がさらに言います…
「みんな なにゆうてんねん。 あれはただの貯金箱や。 背中に小銭入れる穴があいていて 足の裏の塩ビの蓋からまた取り出せるだけや。 で、でもなアメリカ製やろ 一応10円入れたらサンキューいいよるねんで。」
なにせイメージ価格で25万円もしたのですから それはたいへんでした。
さて 今更ながらキットの箱を開けると ガラガラガラっと雑な袋に無造作なパーツが入っております。 昔の金型なので パーツ分割が単純ですが ベースの粘土感と頭部アンテナやキャノピーのシャープな感じがアンバランスで楽しいです。 設計図もシンプルな物です。 素晴らしいことにバリ等の金型の傷みがあまり見られません。 オーロラの模型は バリやヒケが多くて 実際には組めないものが多い印象でしたがそれはアジア産のコピーものばかり見たからかもしれません。

 

 

箱絵にあるような怪光線もちゃんとパーツについています。 蛇腹の腕はおろか キャタピラもプラスチックで出来ていて 全く可動しません。 そのキャタピラの痕が どこかの惑星の地面に付いているというベースです。 キャタピラで切り替えした痕で動きを表現してあるというわけです。 モーターで走行どころか 手からミサイルひとつ飛びませんし 貯金箱にすらなりませんでした。 当時の模型屋のおじさんは 子供に現実を見せて がっかりさせたくなかったのかもしれませんね。 あくまでも 善意に解釈するとですが…

 

これも なつかしのグリーンホーネット「ブラックビューティー」です。 オーロラはこんなプラモも出していました。 ブルース リーがブレイクする前にテレビ出演していた番組でした。 たしかミスターカトーというのだっけ? この頃の日本人はすべてカトーさんでした。 宇宙大作戦もカトーさんです(これは日本のテレビ会社が勝手につけた名前で 本国ではスールーさん)。 ディック トレイシーはヤマダさんでしたね。 ピンクパンサーの助手の東洋人は う〜ん忘れました。 このブラックビューティーの本物が ロスの郊外の小さなミュージアムに保存されていたのを見たときは 嬉しくてたくさん写真撮りました。 同じところに バットモービルもグッドコンディションで保管されていました。

この模型もイメージ価格で15万円ぐらいしました。 シートにはホーネットとカトーのフィギュアがちゃんと座っていて 特徴的なグリルにはメッキパーツが奢ってあって ヘッドライト下のミサイル発射口が開閉して トランクからバズーカ砲が飛び出して…と そんな 今オトナになっちゃった模型小僧の祈りもむなしく ただ まッ黒な四角い車が箱の中に入っています。 今回は箱を開けないでおきます。 当然 ラジコンでもモーターでもゼンマイでも走りません。 それでも 模型屋さんの棚にこれを見つけたら やっぱり「買うた! う〜んやっぱり止めた! 買うた!う〜カミさんに怒られるから止めた…」と 買うた止めた音頭を踊ってしまうんでしょうね。 ええ年こいても相変わらずです。 中を開けてみたい人は 模型屋さんに走ってください。

 

ポーラーライツ社のほかのラインナップをみて ぞくぞくするのは変な模型ファンだけでしょうか? よ〜くみると ヒッチコックのサイコ屋敷のプラモもあります。 おそらくは日本にも輸入されています。 こんな模型が当時出ていたのでしょうか? う〜ん謎です。 その他には ロックバンドKISSのフィギュアもあるようです。 オーロラからは イェローサブマリン版のビートルズ4人衆が出ていたのは覚えていますが…。 上のフライデーのように ジーンシモンズや ポールスタンレーのジオラマ模型があると思うと それだけでもゾクゾクしますね。 う〜ん 見てみたい…。 しかし 決してオーロラ社から出ていなかったものもあるのも確かです。 テイムバートンの スリーピーフォローの首無し騎士も出ていますので もはやポーラーライツ社は かつてのオーロラ模型の韻を踏んだ模型を 今更ながら開発し わざわざ版権を修得して発売しているのかもしれませんね。 全くおそれイリヤのクリアキンです。




息せき切って いつもの角を曲ると 五郎模型には白と黒の垂れ幕が掛かっていた。 参列する喪服の群れの襟元には もはや潮が浮かび 初夏の訪れを予感された。 供花の脇には氷柱が立てられ 黒の腕章をした子供たちが無邪気に氷に触れて遊んでいた。 祭壇の奥には 五郎さんの遺影が掲げてあった。 遺影のおじさんは たまに立ち寄る大人のお客や 子供にプラモを買い与えようと店にきた親にだけ見せる愛想笑いを浮かべていた。 そしてそれは もう二度とジローに向けられることの無い表情だった。

8月の末にもなると 夏の断末魔が聞こえ すでに夕暮れが早くなり始めた頃 ジローは五郎模型に立ち寄った。 噂で五郎模型が閉店すると聞いたからだ。 プール開放日の 塩素で髪の毛がぱさぱさのまま その間使うアテも無く貯められた小遣いをもって五郎模型の戸を開けると 何事も無かったように はずみ車の呼び鈴が鳴った。 あの500円はそのまま親に返したが もはや地底戦車アトラスや ウルトラやキングは無理でもベビーモグラスぐらいは買えるほど小遣いは貯まっていた。 おばさんは少しやつれたような顔でジローを迎えた。
「この模型屋さん 畳むことにしてん。 いつも来てくれておおきにね。 ぼく 欲しい模型あったら 一個どれでもあげるよ」
ジローは 迷うことなく 棚の上の方で鎮座する模型の箱を見上げた。 今も「極光」は静かに見下ろしていた。
田宮のCB750フォアやホンダF1 今井のビッグマイティー号などと比べ物にならない深遠で謎に包まれた模型がそこにあった。
「おばちゃん ほな ぼくあれ欲しいわ…あれもろて ええのん?」

 


さてこの幼少ジローがいつも見上げていたのは オーロラ社の宇宙家族ロビンソンと 一つ目宇宙怪物のジオラマキットです。 宇宙探検車にめがけて岩石を投げつけようとしている怪物に ロビンソン一家が光線銃で立ち向かっている情景を捉えたプラモです。 イメージ価格で38万円もするお化け模型でした。 全自動のサンダーバード基地とどっこいの値段がしたと思われます。 
当時の模型は このようなカラー箱ではなく 白黒の絵か劇中の写真を配してあったような気がします。 この頃の輸入プラモは シュリンクパックして 子供の手の届かない所に積んでありましたが 逆にだ〜れも買わないので 模型屋のおっちゃんが仕方なく組んでウィンドーに飾ったりしました。 鎧兜のプラモや 日本の名城シリーズや 今井科学のローマの軍船などもオッちゃんが組んで飾る模型の典型でした。 このキットは ベースのスイッチを入れるとモーターで怪物が岩石を投げつけるギミックがあるのだろうと子供の間では言われていました。 そして この宇宙探検車はラジコンでベースの上を思い通りに走るのだろうとささやかれていました。 そして探検車からはフライデーが自動で降りてくるのだろうと…。なにせ この模型箱の側面と値段のみでイメージを膨らませたのです。

ポーラーライト社の復刻模型は 本当にパーツがきれいです。 金型を大幅に改修しているか それともキットから金型を新造したのではないかと思われるぐらいです。 しかし組んだ時の合いの悪さは当時のままだと思います。 とほほほほ。 しかし この完成写真を見ると パノラミックでカッコいいですね! きれいに仕上げてジロー模型店のウィンドーに飾りたいものです。
宇宙探検車は そのでっかい窓に カーテン引いてあるんだよね。 まるでスキーバスじゃんとか 宇宙線や放射線がガンガン入ってきて危ないとか そんな野暮はいいっこなしよ。 なにせセンスオブワンダーなんだもん。 でもラジコンで走るんだと思い込んでいた探検車がキャタピラとボディー一体成型で しかもフライデーなんか窓に貼るシールだもん。 悲しいよね とほほほほ〜。
まあ よくやったポーラーライツ!これからもガンガン復刻版出してください!!

 

「んで どうなったざんすか?」と 固唾を飲んでニセジローが訊ねた。
「実はね その箱は既に空っぽで 中身はオッちゃんが組んで 陳列ケースにいれてあったんだけど いつのまにか無くなって箱だけ棚に積んでいた物だったのよね。 そんなわけで この宇宙家族ロビンソンの一つ目巨人は ふか〜いトラウマ模型なのよね。 習字は そのまま初段になるまで続けて 初段になったとたん止めたんだわ。 ところが止めたとたんに とんでもない字になっちゃった。 嫌がることを無理やりさせてはならないという見本やね。」
「なるほど それでジローさんの注文の伝票 読めないぐらいにキッタナイ字なんですか。 読めなかったんで これ 童友社の名城シリーズのゴールドメッキバージョン ワンカートン置いていきます〜」と 屑原さんは笑った。
「おいおい まってくれ〜!!ダレがそんなの買うの!」

 



 

オーロラだけではなく 今でも買える当時の憧れの外国性キットとして 数点挙げておきましょう。 最近では再販ラッシュです。
この007シリーズなどはファン待望といえます。 「007は二度死ぬ」の組み立て式オートジャイロ リトルネリーも最近再販いたしました。 当時のイメージ価格は12万円ぐらいで これもラジコンヘリだと信じて疑っていませんでした。 余談ですが ボンドは新兵器にネリーと名づけることが好きで 潜水ロータスエスプリにはウェットネリー(おねしょのネリー)と名づけています。 ネリーとは 秘書のミス マネペニーの愛称だったのではないかと思います。
外国模型には 子供でも作ることができるかを示さないと 消費者センターに苦情がいきます。 それで模型の箱の横に組み立て難易度が示されています。 実際にはリトルネリーはパーツの合いが悪く スキル2なんてものではないと思われますが…。 日本の模型屋では 「おっちゃん これ小学3年生でも作れますか」とか 昔は聞いて買ったものです。 今でもそうあって欲しいのですが…(ジロー模型第11話「プラモ史上最大の侵略」につづく)。

 

箱のうらには リトルネリーの元の軍用オートジャイロの説明が書いてあり 開発した博士がリトルネリーに乗っているスナップが見られたりします。
WALLIS WA-116 は 分解組み立て可能な軍用簡易オートジャイロで この姿で実際に飛行することができました。 劇中には桜島上空を偵察するボンドを海女姿の松岡きっこが見上げるシーンもありました。 ボンドものは オーロラやエアーフィックスばかりではなく 日本の模型メーカーからも出されておりました。 「英国諜報部員専用アストンマーチン」という模型も当時出ておりましたが最近になってゼンマイ付きで再販されたりして微笑ましいです。  オーロラからは007仕様のアストンマーチンDB5やコネリーのボンドと ハロルド坂田の謎の東洋人オッドジョブ(ゴールドフィンガーではないところがオーロラらしくて最高です)もリリースされておりました。 これらも是非ともポーラーライト社から再販して欲しいものです。
洋ものプラモというと やはり宇宙大作戦シリーズを出さなければならないでしょう。 初代エンタープライズ号やクリンゴンの戦艦 ロミュランの透明宇宙船などが出ていました。イメージ価格40万円ほどでした。 amt社のキットは 組むと日本の家庭事情にそぐわないぐらいに大きいので ああ やはりアメリカのおうちは大きいんだなあと感じずにはいられませんでした。 例に漏れず このエンタープライズ号のコマンドブリッジパノラマ模型も組むと おお!と声が出るほど大きいです。 箱を開けると やはり大柄なパーツがガラガラガラっと入ってます。 このコマンドブリッジも 時々再販されておりますので 当時の仇を取りたい方はどうぞ。

 

左上のコミューター フェーザーガンの小道具三点セットは当時の子供の憧れでした。 実際にトランシーバーの機能があると信じておりました。 ミスタースポックは オーロラの金型か 影響を受けたのかジオラマベース仕立てでした。 これらは長年に渡る絶版キットなので 先月のイーベイオークションで1500ドルの値段がついておりました。 絶版プラモは世界各国でおバカな高騰ぶりを見せております。 しかし一度再販すると まあ また買えるやろうとタカをくくってしまい 買わないでいるとまた絶版になってしまいああ あの時に買っとけばよかったと後悔します。 見たら速攻で買わなければならないのは絶版パーツと同じです。さあ みなさん 復刻マッハ用ステップゴムを買ってあげてください(CM)。
コマンドブリッジは カーク船長とミスタースポックとスールー(カトー)とおぼしき人形がついております。 度重なる再販で金型が傷み 左右分割の頭部にズレが出てキカイダーになっています。 しかし小さいながらも なんとなく誰か分かるのが素晴らしいですね。 カーク船長のウィリアム シャトナーさんは 日本のテレビ番組「料理の鉄人」のライセンスアメリカ製作版では鹿賀丈史の役をしているらしいですね。うう〜見てみたいですよね〜。 


 

最後は 2001年宇宙の旅「オリオン号」を紹介して締めくくりましょう。 これはエアーィックス社から現在も再販されている物です。 当時のイメージ価格は15万円ぐらいでした。 オリオン号はオーロラや日本のマルサン商会からも出ておりました。 オーロラのオリオン号はエアフィックスよりもシャープで細身でしたが 実際に組みやすいのはエアフィックスのものでした。 マルサンのオリオン号は どてっぱらにでっかいゴムタイヤがついており ゼンマイ動力で走る!というものでした。 キューブリックがみたら尻こだまが抜けていたことでしょう。 劇中のオリオン号はパンナムのマークが入ってましたが このキットでは割愛されています。 パンナムの倒産に寄るものでしょうか。 民間の航空会社がシャトルを持つのも時間の問題になって参りました。 もし パンナムが現在も生き残っていて スペースシャトルを打ち上げる日がきたら きっと「オリオン」と言う名前をつけたに違いありません。

いまでは 模型を買うことに頓着のないオトナになってしまいましたが 箱の横顔を見上げることでイマジネーションを膨らませることができた極光の頃を忘れることができません。

 

 


〜ジロー模型・極光の頃 完〜

もひとつCM…
ギララの他にも アストロボートもあるでよ!
陸はゼンマイで疾走し 水面をゴム動力で進むぞ!
モチロン 水中モーターもOK!!


ジロー模型店に半田溶助なる剥製マニアが現れ罪深いトラウマを暴露!
ニセジローとの確執!そしてプラモ界の未来は!
 危うしジロー!
 

「鳥を見た」につづく