CB90復旧日記・その2
ガス欠編

 

4月2日(後編)

 

店に到着すると、大将はCRMのキャブを懸命にイジッている。 今日は何台か修理が入ったので 直した分から帰ってもらわないと単車が店に入りきれないんで CB90を持って帰ってくれると助かるという。
 
ガソリンタンクはサンポールで掃除したが 良くならないんでチューブにフィルターを付けたらしい。 メッシュのフィルターなど よほど大きいゴミでないと意味がないだろうなあといつも思う。 タンクキャップを外してみるとなるほど 真っ赤っかのままである。 新品のタンクは手に入らないだろうから ゆくゆくは状態の良いタンクを見つけるか、最近ハヤリのケミカル剤を使ってみるしかないだろう。
シートは小さな破れがあり ウレタンが所々見えている。 横の大きな皺ができるところに黒いガムテープが貼ってある。 大きな破れがあるのだろう。前のオーナーか 業者か 大将が見てくれのために貼ったのだろう。 力が懸ることで 今後絶対にずれてくるので 処置が必要だろう。 ブレーキはよく利くとのことだが ある時期使われていなかったのは確かだし まして20年前のメカなので手を入れる必要があるだろう。 一見して チェーンとリアスプロケと タイヤは交換した方がよさそうである。 バッテリーとエアクリーナーも 一応のもんだろう。 まあとにかくだましだましでも乗って帰って手を入れるしかないなあと、ぼんやり考えた。

 
錆さびタンクは空なので 隣のZ II から3リットルほど拝借する。 コックを予備で開くと チューブにガソリンが通り フィルターを介してキャブに注がれていく。 キックするとアッサリ始動した。 アイドリングは比較的安定しているが 回転をあげると少しもたつく。 結構勇ましい音がする。 ひんやりと湿ったにおいが漂い始めた。 雨に濡れるのは御免なので 約束の金額を払って早々に店を出る。
大将が笑って手をあげるので左手をあげて答える。 同時にクラッチを繋ぎ アクセルをぐりんと捻って加速する。 …低回転トルクはやっぱりプーだ。 しかも爆発が不等だ。 薄すぎるのか? ブレーキは これまた止まらない。 もう一丁アクセルを捻り込んでいたら 一軒目のスタンドを通り過ごしてしまった。 3リットルあれば リッター10キロとしても30キロは走るわいと 半ばヤケで回してみる。 もたついた加速が 20年ぐらい前のR&Pを鮮明に思い出させる。 分厚い雲からはポツポツと 雨が降り出した。 …と アクセルを戻したとたん エンジンがストールする。 惰性で走る間は クラッチを繋いで始動させてみるが駄目だ。 仕方なく路肩でキックする。 …かからない。 右脇をクルマが乱暴に加速していく。 ヘルメットを脱いで さらにキックする。 だめだ。 ニュートラルランプは点いているのでヒューズ切れではない。

 
店から出て数キロしか走ってないのにいきなりエンストである。 汗が噴き出てくる。 路面は雨で黒く染まり始めている。 やむなく プラグを見ようと かばんからプラグレンチを出す。 B版のレンチでは空転している。 カブ用か…と再びかばんをまさぐる。 今度はカブ用のレンチでは入らない。 なんちゅうこっちゃ D版か!とつい声に出してしまう。 今後はD版のレンチも持って歩くのかと思うとメチャ気が重い。 仕方なくプラグは諦めた。
今度はガソリンチューブを抜いてみたが なんとガソリンが来ていない。 コックを動かしたり 車体を傾けたりすると少し出るのみである。 3リットルあったガソリンはいったい何処へいったんかいなと思いつつ ガス欠であると判断し チューブを再び差し込む。
雨足はすでに強く MA−1は 濃緑色に変わり ずっしりと重く身体に貼り付いている。 ヘルメットをアタマに乗っけて トボトボとスタンドへ押しはじめる。 バイク屋から出て数キロにもならないうちにこの調子では先が思いやられる。 さすがR&Pのエンジン やはりなあと情けなくなった。 これを乗って帰れという店もたいがいやなあと思う。 並みのお客なら大チョンボ大会である。

スタンドが見えてきたが すでに汗と雨でグチャグチャである。 ガス欠かいな どんくさいなあというオニイチャンの視線がいやだ。 ガソリンタンクをレギュラーで満タンにする。 これでイケるかと思いきや それでもかからない。 やはりプラグか…いや一応コックを点検した。
なんとガソリンが来ない! これはコックの詰まりである。 財布からキャブレター掃除用の荷造り札のワイヤーを出してごそごそと突っつくとようやくガソリンが出てきた。 チューブを差し込んでコックを開くと 錆を含んだガソリンがフィルターを素通りし キャブに降りていく。 オニイチャンは オッサンなにやってねんと言わんばかりに茶髪を掻いている。 錆入りガソリンで息を吹き返したCBに騙しだまし乗り 職場に戻るとずぶ濡れついでにカブに乗り換えて家に帰る。

 

 

湯船に浸かっている間は あまりにもええかげんなタンクの処理に腹を立てていたが冷や酒をあおるうちに気がおちついてくる。 バイク屋の仕事など所詮その程度で 自分の技術や知識を駆使し一箇所ずつ改善していくしかないし その末にのみ信頼性の高い一台が仕上がるものだろうと 今更ながら考えた。 バイク屋にはそれをちょっと手伝ってもらう程度であると・・・。

 

明日は雨が上がれば早速CBを取ってきて 始めようとむしろ闘志さえ湧いてくる。